余命の概念を示した上のグラフを見ると、生存期間の範囲は非常に幅広いことがわかるだろう。
医師はこのような図を頭に置いて余命を告げているが、受け取る患者側はそうは思わず、「あと1年の命」とか、「せいぜいもってもあと1年」などと、悲観的にとらえてしまうのだ。
「余命は聞かないほうがいい」が良い理由
佐藤先生自身は、先生のほうから患者に余命を告げることはないという。
「医師としては、『余命は聞いてほしくない』というのが本音です。もっと正直にいえば、聞かれても『個人差が大きいのでわかりません』と答えたいところです。知りたいという患者さんには、説明を尽くしてお話ししますが、問題は、多くの患者さんが診察室で『余命』という厳しい言葉を聞いたとたんに、頭が真っ白になってしまうことです」
すると、たとえ、そのあとに医師が「あくまでも推測の中央値であり、長く生きる人もいます」と説明したとしても耳に入らず、余命の数字だけが頭にこびりついてしまう。
実際に、それまで食習慣に気をつけていた人が、悲観的になって食事をきちんととらなくなることもあるとか。また、意気消沈して家にひきこもり、足腰が弱って、かえって死期を早めてしまうようなケースも少なくないという。
「ですから私は、『余命は聞かないほうがいい』とお話ししているのです。いろいろな事情で余命を聞いておきたいというお気持ちもわかります。ただ、テレビドラマや映画では、よく患者が医師に『あと何年、生きられますか』と尋ねるシーンがありますよね。そのせいか、余命は聞くものだと考えて、つい同じように聞いてしまう人が多いのではないでしょうか」
例えば、2007年にドキュメンタリーが話題になり、その後、関連書籍がベストセラーになって榮倉奈々主演で映画化された『余命1ヶ月の花嫁』。末期の乳がんに侵され、余命1か月と宣告された24歳の女性の夢は、ウエディングドレスを着ること。
その夢を叶えるために友人たちが彼女と恋人との模擬結婚式を行い、その1か月後に亡くなるというストーリーで大きな反響を呼んだ。
また、今年1月から放送された連続ドラマ『春になったら』(フジテレビ系)は、膵臓がんで余命3か月とされた木梨憲武演じる父親と、3か月後に結婚式を控えた奈緒演じる娘の3か月間を描いた。この父親もまた、3か月後に亡くなっている。