老舗の婿となると、有形無形の重圧がかかりそうだが、「先代は実直な人物。お婿さんに理不尽な仕打ちをするような人ではない」(別の商店の店員)という。
常連客の男性が振り返る。
「先代は顧客本位の丁寧な仕事ぶりや、将来を見据えた職人への指導力で知られ、全国から寿司店の2代目が修業のため集まってくるほどでした。店は雑誌やテレビにも取り上げられ、職人は独立後、予約困難店としてメディアで注目を集めるなど、たしかな腕を振るっています」
「とにかく寿司職人になりたかった」
秀彰容疑者は山形県の出身。地元の私立高校を卒業後、18歳で上京して寿司職人の道へ。門をたたいたのが職人を募集していた都寿司だった。
技術や味に惚れ込んだわけではなく、のちに「とにかく寿司職人になりたかった」とメディアのインタビューに答えている。
婿入りして5代目になると、米シカゴで開かれた寿司セミナーではネタの鮮度を保つ「握り方」を実演。4年前には先代と並んで有名グルメ雑誌の取材を受け、寿司に合う麦焼酎を紹介して《味のない焼酎じゃないですからね。酢〆やヅケ、ツメを乗せた江戸前鮨に寄り添ってくれるのです》と得意げに語っている。
昨年夏には地元の祭りで実行委員長を務めるなど、周囲には地域貢献に熱心だった4代目の背中を追っているように見えていた。
しかし……。
「先代のころに比べて味が落ちた。鮮度へのこだわりが薄れて“こんなレベルだったかな”とがっかりした。これだったら回転寿司のほうがいいやと思ってしまった。もともと、卵焼きはだて巻きのように甘くてしっとりした食感で人気だったのに、パサパサだった」(別の常連客)
メディアへの露出効果などでランチタイムには行列ができる人気ぶりだったが、夜は営業時間内でも“事実上の店じまい”状態だったこともあるという。
「お世話になった人が“うまい江戸前寿司が食べたい”と言うので連れていったら、まだ夜も早いのに“もうシャリがないから握れない。何もないよ”と言われてしまった。せっかく店を訪ねたのに言い方が乱暴というか、ずいぶんとぞんざいな断り方で、恥をかかされてしまった」(地元の男性)