開催されたパリ五輪。たびたび五輪に反対するパリ市民たちと警察隊の衝突などが報じられたが、なんとか開催へと漕ぎ着けた印象だ。
競技や開会セレモニーに注目が集まるが、五輪の目玉のひとつであるマスコットも昨年、8月にお披露目されたのはご存知だろうか。
オリンピック公式マスコットかわいくないのはなぜ?
それが、「Phryge(フリージュ)」というナポレオンなどが被っていた「フリジア帽」をモチーフにした真っ赤なキャラクターだ。しかし、これが肝臓を擬人化したかのような風貌で、シンプルにかわいくない……。
『FNNプレミアムオンライン』の記事では、「フリージュを称える記事は、残念ながらほとんど見られなかった」といった現地メディアの評判のほか、SNSでも酷評の嵐であることや、「赤い三角形?クロワッサン?ファミリレスによくあるぬいぐるみかと思った。五輪との関連はよくわからない」という、パリジャンたちの辛辣な意見を紹介している。
「これまでの五輪マスコットは自国を代表する動物などがモチーフでしたが、2体いるうちの『パラリンピック・フリージュ』は片足が義足になっているなど、『多様性』が盛り込まれているのが特筆すべき点です。
ただ、かわいいかと言われたら、『外国人のセンスだな』としか言いようがありません(笑)。他方で2022年のFIFAワールドカップカタール大会の、『キャスパー』や『一旦木綿』と評された『La'eeb(ライーブ)』と同様、自国を代表する動物をキャラクター化しないのは最近のトレンドなのかもしれません」(スポーツ紙記者)
同じく動物ではないマスコットといえば、1996年のアトランタ五輪の「イジー」がいる。大きな目玉と口に手足が生えた「謎の生き物」で、「アメリカンコミック」を体現したようなキャラクターだった。
「もともと、その風貌からキャラクター名は『What is it?(ナニコレ)』を略した『ワジット』になるはずでしたが、アメリカ国内では大会前からその存在は酷評されまくり……。そこで、急遽テコ入れされて、当初存在していた下の歯は消され、代わりに舌と鼻が追加されます。しかし、それで人気が出ることはありませんでした」(カルチャー誌編集者)
ただ、今回のフリージュの登場を受け、アメリカの「USA Today」は「26年間、『史上最低の五輪マスコット』の座を欲しいがままにしていたイジーは、パリ五輪の『赤いうんちの絵文字【編注:フリージュのこと】』に奪われた」と評している。
また、生き物ではないマスコットといえば、2012年ロンドン五輪の「ウェンロック」と「マンデビル」も思い出す。まるで、鉄骨に巨大な一つ目がくっついた化け物のような風貌だが、意外にもイギリスの子どもたちの間での評判はよかったという。
「五輪のマスコットが『かわいい』か『かわいくない』かで言い出したら、1968年グルノーブル冬季五輪の『シュス』の時点で話は終わります。これはスキー板に乗っかったペラペラの胴体を持つ、目の離れた巨大な頭の化け物で、まったくもってかわいくありません。
しかし、この大会を機に五輪マスコットは定番化していきます。つまり、初めて五輪のマスコットが誕生した時点で、『別にかわいくなくていい』という思いが主催者側にはあったのではないでしょうか? そもそも、日本人は普段から『ちいかわ』や『すみっコぐらし』など、かわいらしいキャラクターに囲まれて生きているため、新しいマスコットの登場に期待を寄せ過ぎているのだと思います」(前出・カルチャー誌編集者)
とはいえ、マスコットがかわいくなければ、海外でも悪評が立つのは、これまで見てきた通り。五輪ではないが、2006年の FIFAワールドカップドイツ大会の公式マスコットであるライオンの「ゴレオ6世」は「パンツを履いてないのでいかがわしい」などと酷評され尽くした。その結果、マスコット制作会社のニキは売り上げが立たずに、ワールドカップ開催前に倒産している。やはり、マスコットの存在は重要なのだ。
そう考えると、なにかとゴタゴタ続きで、失敗に終わった前回大会の東京五輪。振り返ってみて、唯一評価すべき点は、公式マスコットの「ミライトワ」と「ソメイティ」がかわいかったということだろう。
取材・文/千駄木雄大