世の中には「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」だけでなく、「ヤバい男=ヤバ男(ヤバダン)」も存在する。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、芸能人や有名人の言動を鋭くぶった斬るライターの仁科友里さんが、さまざまなタイプの「ヤバ男」を分析していきます。 

第37回 石丸伸二 

 東京都知事選において、蓮舫氏をしのいで約165万もの票を獲得した石丸伸二氏。投票率も前回より上がり、政治を変えようと立ち上がる若い人がいることは喜ばしいことですが、よーく見てみると、いろんな意味でヤバい面が見えてきた気がしてならないのです。

1.テレビは攻めに弱すぎる

 敗れはしたものの、大臣経験者である蓮舫氏より票を撮ったわけですから、「有意義な負け」であったのではないかと私は思います。こうなると、国政に打って出るのかなど、石丸氏の次なる動きに注目が集まるのは当然のことでしょう。

  石丸氏にはテレビやラジオの取材が殺到します。疲れていたでしょうし、同じ質問ばかりでうんざりしていたのかもしれませんが、選挙特番でTBSの篠原梨菜アナウンサーから、選挙戦を振り返っての感想、勝利に届かなった理由をどうとらえているかと聞かれた石丸氏は「勝ち負けと言う表現が、実にこの選挙にそぐわないとかねてより思っています」とし、その理由を「結果はあくまで都民の総意が可視化されただけであって、都民において勝ちも負けもないですよね」というのがその理由。いや、篠原アナウンサーは、石丸氏について聞いているのであって、都民の話はしていないのでは……。続いて、スタジオ内のJX通信社・米重克洋氏が蓮舫氏より票を取ったとされることについて、善戦したと思っているのか、それとももっと上に行きたかったのかと聞かれた石丸氏は、「何という愚問ですか。選挙に出る以上、一番上を目指さなくてどうするんですか。アントニオ猪木に怒られますよ。負けることを考えるバカはいないって」と声を立てて笑ったのでした。あれ、石丸さん、さっき「選挙は勝ち負けじゃない」って言ってませんでしたっけ・・・。こういう時、聞き手には常識の範囲で軌道修正をしてほしいのですが、TBSに限らず、“テレビの中の人たち”は日本テレビの中継に出演した社会学者・古市憲寿氏以外はタジタジして、石丸氏に対してビクビクしているように見えました。

 なぜここまで及び腰になったのかと言うと、テレビの中の人は出演者にケンカ腰で答えられたことがほとんどないために、どう対応したらいいのかわからなかったからではないでしょうか。それでは、なぜ、テレビの中の人に感じ悪くふるまう人がいないのか。石丸氏はNHKに選挙の敗因を聞かれて、「NHKをはじめ、マスメディアが当初全く扱わなかった」と答え、「そういうところ」と質問者を指さし、支持者からは拍手喝さいを浴びました。つまり、候補者にとって、テレビに出ること、もしくはテレビで自分を取り上げてもらえるかどうかは非常に重要なわけです。テレビに出られるかどうかで当確が決まるなら、候補者は自然と「テレビに出していただく」立場になりますから、テレビの中の人に失礼な態度を取る人はいないわけです。テレビの中の人が石丸氏に強く出られないというのは、それだけ長いこと、出演者を下に見ていた、ふんぞり返っていた証拠とも言えるのではないでしょうか。石丸氏の高圧的な物言いは、ある層には「マスコミを論破した! テレビに大勝利!」と受け止められるでしょう。女性層にはモラハラと感じられて、一時的にはイメージダウンかもしれません。しかし、今の時代、「いい話」よりも「人をイライラさせる話」がエンタメの中心になりつつあります。石丸氏にモラハラ説が持ち上がるほど、物語の続きが気になるように「今度は何をしたの?」と人々は石丸氏を見たくなってしまうのだと思うのです。