「私の場合、最初の入院はお盆休みだったので、特に職場に迷惑をかけることもありませんでした。それに、入院する数日前に勤め先の人には口頭ですが報告していました。特に秘密にはしていません」

 現在勤めているのは、長年働いている情報通信業の会社。

「健康状態が悪化すれば、契約を切られるとは思いましたが、あまり深刻には感じませんでした。その後3回入院することになりましたが、会議などはリモートで参加しています」(Aさん、以下同)

要再検査を放置すると便器に潜血が

 '22年6月、健康診断で要再検査と判定されたが、内容(尿潜血反応)を確認することなく、忙しかったのもあり放置。それから数か月後、便器に鮮血があり、初めて異変を意識した。

「泌尿器科で内視鏡検査を行った際、医師に頼んで一緒にモニター画面を見せてもらい、膀胱の中に肉腫があるのを確認しました。もちろんショックでしたが、私の場合はがんそのものを目視することができたので、得体の知れない恐怖はありませんでした」

医師にがんと告げられると、多くの人はうろたえてしまう(写真はイメージです)
医師にがんと告げられると、多くの人はうろたえてしまう(写真はイメージです)
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 ステージ2の膀胱がん。粘膜だけでなく筋層まで浸潤しているが、他臓器への転移はない、という状態だった。代用膀胱をつくることにして、手術を受けた。お金の面での心配はなかったのだろうか。

「セカンドオピニオンは保険が利かなかったのですが、手術なども保険適用の標準治療。高額療養費についてはネットの情報や加入している健保から教えてもらえましたし、あまり気にすることはありませんでした」

 手術は成功して、現在は日常生活に制限はないが、近々、合併症による手術も予定している。がんの告知後、会社の同僚などにがんであることを切り出したのはよかったという。

がんの話をした際、周囲の反応は温かいと感じました。意外だったのは、自分もがんだったんだよね、という人が案外いるということ。手術の傷痕を見せてくれた人もいました。完治して復帰している姿を見るのはかなりの励みになりました」

 Aさんは仕事を辞めず、生きがいもあきらめることなく人生を歩んでいる。

「私は仕事ばかりの生活だったので、楽しみといえば休日に妻と出かけることくらい。美味しい店を探しては行ってみたり、車で少し遠出してみたり。でも、それが生きがいだということにも気づいた。今は妻との時間を噛み締めるようになり、以前よりも出かけることが多くなりました。まだ妻を残して先立つようなことはできませんね(笑)」