スポーツへの恩返しと子どもへの応援
森アナは、増田の解説からは選手を輝かせたい熱が伝わってくるというが、一方で、周りの人へのホスピタリティー精神が抜群だとも話す。
「現役ランナーをゲスト解説者としてお呼びすることがあるんですが、話すことに慣れていない方もいるんですね。そういうとき増田さんは率先して、“この選手だけど、○○さん、どう思う?”と言いながら場を回してくださるんです。それによってゲスト解説者も輝くんですね」
その舞台回しは、レースが終わっても続く。
地方の大会が終わって、森アナが増田たちと飲食店で食事をしていると、大会関係者やスポンサーらしき人たちも集まってくる。
「すると、増田さんが全員に話しかけて場を回し始めるんですね。盛り上がって、気がつくと、渦の中心にいるのはいつも増田さん。人に話させて、その人のいいところを引き出したいという思いが強いんでしょうね」(森アナ)
人を輝かせる活動といえば、ほかに、大阪芸術大学教養課程教授や日本パラ陸上競技連盟会長、日本パラスポーツ協会理事も務めている。
スポーツ以外でも、例えばプラン・インターナショナル(以下プラン、本部ロンドン)というNGO団体と活動を展開している。この団体は、発展途上国の女子を元気にする活動を行っている。
「発展途上国の中には男子が優遇されるケースが多くあるので、女子を支援しています」
例えばラオスでは、女子には教育の機会がないので、プランでは幼稚園をつくった。しかし公用語のラオ語を話せないと小学校にも行けず教育が途切れるので、幼稚園で女子もラオ語を学べる環境を整えていく。増田はラオスに行き、そうした実情を記事にして冊子を作り、支援者を募る活動をしているのだ。
これまでベトナムや西アフリカのトーゴなどに行った。
弟の光利さんによれば、「50歳を超えたら世の中のためになる、いろんな人の役に立つことをしたい」と増田は言っていたという。
増田はこう話す。
「私がやっているのは、一つはスポーツへの恩返し、もう一つは晩婚で子どもに恵まれなかったので、子どもを応援するということですね」
増田は、今もランニングを楽しんでいる。地方で解説や講演があるときにも、木脇さんがつくった単純なルートでランニングをする。
「なぜルートを決めるかというと、増田が方向音痴だからです。放っておくと迷子になる。アメリカでも走るうちにフリーウェイに入ってしまって警察に保護されて、白バイに乗せられて帰ってきたことがあります」(木脇さん)
今、増田は、これまで活動してきた経験を何らかの形で書きとめ本にしたいと思っている。
2007年に『カゼヲキル』という、ランナーとしての自伝的小説を書いたが、話題にならず悔しい思いをした。社会活動も含め、厚みを増した人生をどう描くのかが楽しみだ。
<取材・文/西所正道>
奈良県生まれ。人物取材が好きで、著書には東京五輪出場選手を描いた『東京五輪の残像』(中公文庫)や、中島潔氏の地獄絵への道のりを追った『絵描き─中島潔 地獄絵一〇〇〇日』(エイチアンドアイ)など、多数ある。