歴史や浮世絵に自然と触れてきた子が長じて時代小説を書く
振り返ると、子どものころには、テレビの時代劇をよく見ていた。
「歴史にそこまで興味のあるほうではなかったんですが、親がNHKの大河ドラマをはじめ、『水戸黄門』や『大岡越前』などが好きで、一緒に見ていました。私は『必殺シリーズ』が大好きだったんです。わりとエログロなシーンも出てくるというのに、親もよく見せてくれたなぁ、と大人になった今では思いますが(笑)」
また、『永谷園のお茶づけ海苔』に浮世絵の名画カードが入っていて、浮代さんは子どもながらにそれを熱心に集めていた。
「そのカードが浮世絵である、という意識もなく集めていましたね。『富嶽三十六景』なら46枚、『東海道五十三次』なら53枚集めて永谷園に送れば、箱入りのフルセットになって送られてくるんです。それがうれしくて」
これが浮世絵と浮代さんの、最初の出会いだったかもしれない。

「高校生になると、杉浦日向子さんの『お江戸でござる』や、高橋克彦先生の『写楽殺人事件』シリーズなどにハマりました」
大阪の会社員時代には、お茶やお花も習っていた。
「福利厚生が充実した会社で、社長が支援する先生方を招いての教室だったので、格安で習うことができたんです。着付けも小唄も教えていただきました」
バンド活動をやりながらも、日本文化もしっかりと身につけていたのだ。
子どものころからの趣味である小説は、会社員時代も書いていた。
「あちこちからお声がかかるようになった講演会のために、浮世絵や江戸のことをこれだけ一生懸命に勉強したのだから、せっかくなら、時代小説を書いてみようと始めたら、それが700枚近くにもなってしまいました」
講談社の時代小説大賞に応募し、最終選考まで残った。何ともパワフル、そして多才だ。しかし、ここから小説家への道は、そう簡単なものではなかった。