旅館は客商売。SNSへの投稿はややもすると炎上して旅館のイメージダウンとなる諸刃の剣だ。だが2日ほどで1000リツイート。共感と激励がほとんどだった。

古い建物を火災から守るためにも完全禁煙に

《“契約違反”なのだから(中略)“逸失利益”を請求してもいい》《毅然とされた対応、尊敬致します》《ひどいですね…スタッフの方々お疲れ様です》《喫煙者のひとりとして大変申し訳ない。オトナの嗜みがない喫煙者はものすごくカッコワルイ》

 一方、一部否定的な反応もあった。

《私も煙草は苦手だけど〜〜貴女もしつこい、、面と向かって注意したならもういいのでは?(´д`)》《女将の品格を疑う》《喫煙所をきちんと作ればいいのに、喫煙者だけ他所へ行けと爪弾きするなどサービス業にあるまじき傲慢さ》

経営難で事業譲渡を考えていたが、冬の夜の母屋の優しげな姿を見て、女将は再建を誓ったという
経営難で事業譲渡を考えていたが、冬の夜の母屋の優しげな姿を見て、女将は再建を誓ったという
【写真】「詫びなされ!!」女将がSNSにアップした告発投稿

 その「喫煙所」、実は旅館にもともとあり、存廃が議論されてきた。しかし2000年3月25日にあった大火事が頭から離れなかった。西屋と同じ茅葺屋根の旅館が2軒隣接していたが、いずれも火事で全焼。西屋だけが奇跡的に延焼を免れたのだ。

「それをきっかけに火元の管理について、非常に神経質になりました。古い建物なので、喫煙所の煙が他の部屋にも流れてしまい、クレームを受けたこともありました。

 そうこうするうちに2020年に厚生労働省が分煙を強化する通達を出したので、タバコのニオイが苦手な人も安心して泊まれる旅館にしよう、同時に古い建物を火災から守るためにも完全禁煙にしようと決めたのです

 宿泊の際に、禁煙の旨を口頭で伝えたり、「館内・敷地内禁煙」という注意書きを館内や客室など目立つ場所に表示していた。それでもごく少数の宿泊客がトイレの中や、室内でビールの空き缶を灰皿代わりに吸った形跡を残して帰ることがあった。

 タバコのニオイのことでスタッフにこれ以上負担をかけるわけにはいかない――そう考えSNSに投稿したのだ。

 コメントなどの反応に安堵し、勇気づけられたが、蒸し返す人がいた。当の喫煙宿泊者本人である。利用した宿泊予約サイトに“逆ギレ”評価を書き込んだのだ。騒動から2日後の12月18日のことだ。

 総合評価2(5点満点中)。サービスは最低の1。コメント欄には《冬は雪が多く、個人で雪かきしないと車出れません。スキー場感覚で行かないと行けません》と記載されていた。

「喫煙を咎められたことには触れずに雪かきがどうのこうのと。もちろん私たちは車が出られるように除雪はするのに、ですよ。論点をズラした的外れなコメントで、これはもうまかりならんと」

 遠藤さんは宿泊サイトの評価に返答する形でコメントした。事の経緯と全面禁煙に至った理由などを書き、

《本来であれば相応の弁償(クリーニング代)をご請求致したいところですが、恐らく応じて頂けることはないだろうと判断し、この返信を以て遺憾の意を改めてお伝えしたいと思います》

 と付け加えた。