「せめて檻から出してあげられれば」犠牲になった犬たち

 「首都キーウ近郊のボロディアンカにあるシェルターで、222匹ものが命を落としたんです。ボロディアンカはロシア軍に占領されて、凄惨な殺戮があった街。そこには500匹近いがいたのですが、檻の中で1か月以上、餌も水も与えられず……」

 衰弱して冷たくなったたちの死骸を見つける場面は実に痛ましい。
 
「せめて檻から出してあげられれば、たちは雨水をすすってでも生き延びたかもしれない。でも、それをする人がいなかった……。

 みんな爆弾が落ちたり、ロシア兵に殺される悲惨さは想像がつくじゃないですか。でも実は戦争の悲惨さって、それだけじゃない。ちょっとした不幸の連鎖だったりミスから、多くの命が失われることもあるんだと知りました
 
 それを伝えるため、ウクライナに3回飛んだ。
 
「ワガママは承知です。日本の被災地の取材では“こんなに人間が大変な時に、オマエら猫なんか撮ってんじゃねえよ!”と言われました。でもヨーロッパでは一度も言われなかった。“どうぞ撮って伝えてください”と後押ししてもらいました」

東出昌大がナレーションを担当。「人間こそ犬から学ぶことはたくさんあると思う」 (C)『犬と戦争』製作委員会
東出昌大がナレーションを担当。「人間こそ犬から学ぶことはたくさんあると思う」 (C)『犬と戦争』製作委員会
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 映画のナレーションは東出昌大に頼んだ。俳優業のかたわら山小屋に住み、狩猟をしている生き方に興味を持ったという。
 
「やっぱり強烈なテーマだから、同じくらい強烈さを持っている人に担当してもらいたかった。東出さんは鹿を撃つたびに“ごめんね”って罪の意識が消えないそうです。私は肉も食べるし、牛乳も飲むし、卵も食べる。それで動物の命を助けたいというのは、ある種の矛盾を抱えていると思います。
 
 東出さんは、この文明が包み隠している“人間は何かを犠牲にしなければ生きていけない”という事実に向き合っていて、すごく敬意を感じます。だからこそ、やってもらいたかった」
 
 ナレーションの収録中、東出が声を詰まらせた場面があったという。
 
収録のキューを押しても何も言わないから、どうしたのかな?と見たら“ごめんなさい。悲しくて、僕ダメです”“心整理するまで待ってもらえますか”って泣いていて。本当に純粋な人だと思いました