今回の句集を刊行後、川上さんは俳人の夏井いつきさんと対談した。バラエティー番組『プレバト!!』(TBS系)で人気の夏井さんは、

変心やしらすにまじる
大しらす

 という句を評価してくれたそうだ。

しらすの中に大きいしらすがあった。“それがどうしたサノヨイヨイ”ともいえるけど、それを面白がるのが俳句だと、夏井さんの言葉でほめてくださって、すごくうれしかったです

俳句は「自分らしい個性が出ているのが面白いというゲーム」

 この句は「取り合わせ」という技法を使っている。「しらす」とかけ離れた、だが少し関係あるかもと感じる「心変わり」を意味する「変心や」を組み合わせたことがポイントだそう。

2つの違う世界がそこにあるとバーンと俳句が広がるんですよね。いろんな場面を取り合わせるのは、頭脳ゲームみたいで楽しい。ただし正解のあるゲームじゃなく、自分らしい個性が出ているのが面白いというゲームです

 確かに、俳句作りはとても楽しそうだが、初心者がいきなり既成の句会に参加するのはハードルが高そうだ。俳句を作ってみたくなったらどうしたらいいのかと聞くと『20週俳句入門』という本をすすめてくれた。

 俳句には「や」「かな」「けり」など言葉の最後につける「切れ字」がある。そうした俳句特有のルールを1週間に1つずつ学び例句を覚える。

基本的で大事なことをこの1冊で網羅できます。私もこの本で基本を勉強しました。作り方がわかってくると、どんどん面白くなりますよ。あとはカルチャーセンターの俳句講座に行く人も。自分だけで作っていてうまくいかない時も、先生が少し教えてくれると“あ、そうか”って、目の前がひらけたりしますよ

 川上さんの言葉の端々からは、俳句への愛を感じる。最後は句集のあとがきに記された川上さんの言葉を紹介して終わりたい。

生きる面白さと難儀さの両方を感じさせてくれる俳句を、みなさんも、始めてみませんか?

最近の川上さん

 趣味は読書です。だいたい寝床の中で読むので、スマホに入れたキンドルで。字も拡大できるし、本を積んでおかなくていいし。量でいうと漫画と小説が1対1です。最近、びっくりした漫画は『古代戦士ハニワット』。ドラマにもなった『鈴木先生』の作者が描いた不思議な漫画です。ハマっております。

『王将の前で待つてて』

川上弘美著『王将の前で待つてて』(集英社)
川上弘美著『王将の前で待つてて』(集英社)

川上弘美  集英社 税込み2145円

取材・文/萩原絹代 写真提供/集英社

川上弘美(かわかみ・ひろみ) 1958年、東京都生まれ。お茶の水女子大学理学部卒業。'94年に『神様』で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞し作家デビュー。'96年『蛇を踏む』で芥川賞、2001年『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞、'15年『水声』で読売文学賞を受賞。'19年紫綬褒章を受章。他に『真鶴』『大きな鳥にさらわれないよう』『東京日記』シリーズなど。