とはいえコーチをしてくれる人はいない。YouTubeも浸透していないころで、メジャーの試合や本に片っ端から目を通し、独学で研究を重ねた。

「1年近くかかったと思います。初めて回転せず投げられたときはすごくうれしかった。うわっ!てなりました。今の回転してなかったよね!?って」

 中学3年でナックルボールを投げ始め、以降それは彼女の大きな武器になる。

中学では女子一人で野球部に入り、ナックルボールと出合った吉田えりさん(写真/本人提供)
中学では女子一人で野球部に入り、ナックルボールと出合った吉田えりさん(写真/本人提供)
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日本初の女子プロ野球選手が誕生!

 高校2年の冬、関西独立リーグのトライアウトに挑戦。これも兄の影響があった。

「兄が挑戦すると聞き、じゃあ私も受けようと。トライアウトはどんなことをするのか知りたかったんです。家族で観光がてら関西に行きました」

 トライアウトに合格し、ドラフトの7巡目で「神戸9クルーズ」の指名を受けた。男子と同一リーグ・チームで試合する日本初の女子プロ野球選手の誕生である。

 入団契約を経て、神戸へ居を移す。とはいえ素顔は高校生の女の子で、親元を離れるのは初めてだ。

「高校をやめるとき、みんながお別れ会をしてくれて、めちゃめちゃ泣きました。関西へ行ってすぐホームシックになりましたね(笑)」

 チームに加わり2か月後、9回裏にリリーフとして初登板。1万人の観客に見守られ、プロとしてマウンドに立った。

「チームのみんなも温かくて、登板に向けサポートしてくれました。それに応えたいという思いが強くありました」

 ナックルボールを投げる小柄な女子選手の奮闘に会場は沸き、「ナックル姫」の愛称で広く知られるようになる。

 プロ入り1年後、アリゾナで冬季に開催される「アリゾナウィンターリーグ」へ参加を決意。単身渡米している。

「ナックルを試合で安定して投げるのが難しくて。海外に行けばナックルを投げる人に出会えるかもしれない。もっと成長したい、それには海外しかないと思ったんです」

 アメリカで独立リーグ「チコ・アウトローズ」の目に留まり、入団が決定。チーム唯一の女子選手で、男子選手相手にナックルボールで戦った。