日本最大の摂食障害回復施設『なのはなファミリー』(岡山県勝田郡)。
「摂食障害という病気は人生を破壊します。拒食がひどいと、1日の食事が200ccの栄養ゼリーと納豆1パックだけ。過食がひどいと、起きている間じゅう食べ疲れて眠る感じ。過食嘔吐にはしり下剤を毎日200錠飲み、おしめをして水様便を垂れ流すという重度の子も。“食べる”か“食べない”ことにこだわる依存症で先進国特有の病気です」
2004年に日本最大規模の摂食障害者向け回復施設『なのはなファミリー』を岡山県に開設した元ジャーナリスト・小野瀬健人さんは、摂食障害が抱える問題をそう解説する。
「“心に負った痛みを理解してもらえないつらさが、摂食障害を引き起こす”という私の考えを記事にまとめたところ、多くの反響をいただきました。拒食や過食の症状自体よりも、“楽しく生きられないこと”が不安なのです」
‘09 年には廃校となった小学校を借り、年々収容人員を増やした。
「スタッフは15人くらい。入所者は、日中、仕事に出ている子も含めて60人ほどで、8割は、1週間~1か月でほとんど普通になりますよ」
目に見える成果をあげている、施設の1日を追った。
《6時半~起床OK。 8時~朝食→洗い物、洗濯→集合(講堂に集まり、入所者が〝お父さん〟と呼ぶ小野瀬さんから、次の作業の指示を仰ぐ。質問箱に入れられた質問への回答タイムもある)。9時~柔軟、筋トレ、倒立、ランニングなどを約1時間。10時~畑仕事、音楽やダンスのステージ練習など。12時半~昼食→洗い物、洗濯→集合。13時半~農作業、スポーツ、イベント・ステージ練習など。18時~夕食→集合→フリー。毎日日記を書く決まりもある》
これらの日常で、一体どのような効果が期待できるのか。
「活動の柱は、①音楽、ダンス②農業③スポーツ─の3つ。音楽やダンスでは、オリジナルの演目を一から練ります。観客に感動してもらえると、自分たちはやっていける、と確信が持てます。集大成はウインターコンサート。自分たちの目指す生き方を提言できるようなストーリーを考え、それに沿ったステージ運びをします。最近は毎年満員です」
記者が取材した日、5曲のパフォーマンスを披露してくれたが、完成度の高さには息をのむばかりだった。身体を動かし汗を流すことは大事だという。
「自分が何者かわからずさまよってしまう」というこの病気の特徴を取り去るため「自分探しではなく、自分作りをさせていくんです」と小野瀬さん。不定期開催のミーティングでは、互いが胸中を吐露する。
「傷を“単なるつらかった思い出”にしていくことが大切です。何がつらかったか理解して整理し、どんなふうに生きたいかを見いだしていく。それが回復へのポイントです」