いまや2人に1人がかかり、3人に1人が亡くなる「がん時代」に突入。身近な病気であるわりに、デマや噂に惑わされないで本当に役立つ情報を見つけだすのは難しい。そこで、がんに詳しいスペシャリストたちに話を伺った。
・遺伝子検査で未来のがんを見つけられる?
米女優アンジェリーナ・ジョリーをきっかけに広く知られるようになった遺伝子検査。母を乳がんで亡くし、自身も遺伝性乳がん・卵巣がんのリスク遺伝子を持つアンジーは、予防のために乳房と卵巣を切除。世界に衝撃を与えた。
「がんの遺伝子が見つかったからといって、現在すでにがんがあるとか、後天的にがんになるとは言い切れません」
2度の乳がん経験を持つ医学博士・植田美津恵先生はそう語る。最近よく目にする市販の遺伝子検査キットについてはこうアドバイス。
「現段階では、がんになる可能性のひとつがわかるといった程度。占いみたいなものと思ったほうがいい」
がんに関わる遺伝子は多数あり、関連性がわかっていないものも多いからだ。
「がんとの関連性がわかっている遺伝子だけを検査して、そのうちの1つが見つかったからリスクが何倍ですという結果に、はたして信憑性があるのか疑問。日ごろの検診や生活習慣、ケアこそが大切だと思います」(植田先生)
・がんになる原因は遺伝のせい?
「がんになる原因はさまざま。遺伝も、そのうちのひとつと考えられています」(ロンドン大学・小川徹先生)。
加えて、飲酒や喫煙など生活習慣による影響を環境要因といい、これらが組み合わさることで発症すると言われている。
「しかし、なかには遺伝する傾向が強いがんが存在することもわかっています。遺伝性腫瘍とか家族性腫瘍と呼ばれるものです。遺伝性のがんは一般のがんに比べ、若い年齢で発症したり、繰り返し発症したりする特徴があります」(小川先生)
前述した米女優アンジェリーナ・ジョリーが危惧した遺伝性乳がん・卵巣がん症候群もそのひとつ。
「遺伝性のがんは、乳がん全体の5パーセント程度、卵巣がん全体の10~15パーセント程度といわれており、原因遺伝子も特定されています。若くして乳がんになったり、多発性の乳がんが発症したり、卵巣がんも発症したりする人も珍しくありません」(小川先生)
・ピロリ菌を取り除けばがんにならない?
「ピロリ菌を除菌しても胃がんになることがあるので、これはウソ」(小川先生)
ピロリ菌とは、正しくは『ヘリコバクター・ピロリ菌』という、胃の粘膜に棲みつく菌のこと。
「感染すると胃の粘膜に定着、自然に消えることはほとんどなく、慢性的に持続感染します。これが胃がんを引き起こす原因のひとつといわれています。胃がん患者の実に9割以上がピロリ菌保有者という報告もあるほど。感染がわかった場合には、除菌療法がすすめられています」(小川先生)
ピロリ菌を取り除くことで胃がんの発生率を抑え、再発予防にもなることがわかっている。とはいえ、これでひと安心といかない点が、がんの厄介なところ。
「胃がんはピロリ菌だけによって生じるものではありません。塩分過多の食事、野菜や果物の摂取不足も大きな誘因です。特に、喫煙には要注意! 確実にリスクを高めます」(小川先生)