報告書では、加害者がいじめをした理由は書かれていない。自殺との「因果関係は調査対象外」だった。ただ、「校内に『いじめ』の状態があったこと」が「自殺の外的要因のひとつ」として認めた。

「自分がいじめられているとの告白がありませんでしたが、いじめられている友人の話はしていました。それは黄色信号ではなく、赤信号だったんです」(真紀さん)

 正義感が強かったからこそ加害者によるいじめが止まないことが許せなかったのだろう。真矢くんの部屋のカレンダーは自殺する2か月前の4月から何も書き込まれなくなった。重圧に心をふさがれていたのかもしれない。

 子どもが自殺した後の調査委員会の報告書に対し、遺族は不満を口にすることがある。しかし、宏明さんと真紀さんは結果に納得した。

「調査委員は真矢が読んでいた漫画『鋼の錬金術師』の単行本をすべて買った。自己犠牲の精神が描かれてあり、真矢の思いをわかってくれていました」(宏明さん)

 月命日には、両親とも仕事を休んでいる。真矢くんの友人たちが家を訪れてくれるからだ。今年1月、その友人たちは成人式に真矢くんの写真を持って出席した。

「写真を持って式に出てくれないかと思っていたら、お友達も“そう思っていた”と言ってくれて」(真紀さん)

 宏明さんと真紀さんは現在、子どもの命を大切にする活動に取り組むNPOの理事を務め、いじめ自殺や学校事件・事故の遺族ともつながる。

いじめは子どもだけの問題じゃない。それを大人が理解してほしい。子どもだけでは解決しない」(宏明さん)

 東日本大震災から5年目の3月11日。学校死の情報を学校側から引き出す手助けもしているふたりは、多くの犠牲者を出した宮城県石巻市の旧大川小学校の校舎を訪れた。

「命を学ぶ学び舎ですね」

 宏明さんが言い、真紀さんは涙があふれた。

取材・文/渋井哲也