まもなく82歳を迎えるミゾイキクコさん。高齢にもかかわらず、毎日ツイッターを更新し、これまでにつぶやいた数は驚きの17万ツイート。自身の経験から紡がれる深く重みのあるつぶやきは、6万人を超えるフォロワーを集め、ついには書籍化に至ったほどだ。
■まずは手に取ってケチな姿勢はNG
ミゾイさんにとって、ツイッターはほんの小手先のこと。なんとタブレット型コンピューターiPadをはじめ、電子書籍リーダーkindleなど11台を所有し、インターネットをするとき、読書をするとき、外出時に持ち運ぶとき、という具合に状況に応じて使いこなしている“スーパー80代 ”でもあるのだ。
「ノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士や、キュリー夫人に憧れて理系の道に進んだほど、昔から新しいものに触れることが好きでした。高校生のころは、科学クラブで真空管ラジオを作ったりね。パソコンを始めたのは60代中ごろ。株式投資や、税金の計算が楽にできると知ってね。パソコン教室に通って教えてもらうなんて、私は時間もお金も無駄だと思ったから、とにかく自分で触って身につけました」
パソコンに慣れ親しんでいくうちに、iPadやiPhoneが登場した。
「便利かどうかは触ってみないとわからないから購入する」
ミゾイさんの動機はいたってシンプルだ。
「新しいものに対して“怖いからいやだ”なんて敬遠する高齢者がいますが、爆発するわけじゃないんだから(笑)。ただ、1台のパソコンを家族全員で共有すると“勝手にいじった”“ファイルが消えた”なんて面倒なことが起きるから、それがいやなんでしょうけど、要は自分専用のものを買ってしまえば、誰にも迷惑をかけない。ケチな気持ちが消極的な気持ちを生むの。“できるようになったら買う!”なんてケチくさい考えだったら、一生できませんて」
行動を起こさない人に、自信は生まれない。まずは触ってみること。少しできるようになれば、自信だけでなく高齢者の生活にメリットも生まれるのだとか。
「kindleは、文字の大きさを調節できるし画面も明るいから疲れません。iPadでYouTubeを使えば、いつでも無料で好きな音楽や動画を楽しめる。いやなことがあってもすぐに気分転換ができるから、お年寄りにも最高の道具ですよ(笑)」
■いくつになっても自分のことは自分で
その一方で、「便利だから」と家族が無理強いすることは禁物だと釘を刺す。
「最初から“入力はこうする”“これはだめ”なんて、関心がないことに対して、あれこれとアドバイスするのはよくない。興味を持ってから“だったらこっちのほうがいいかも”というようにアドバイスをすること。聞く=関心を持っている証拠ですから、聞かれたら教えるというスタンスを持つことが大事」
父親が将棋が好きであれば将棋のアプリを入れてあげればいいし、母親が孫に写真を送りたいと尋ねてきたら教えてあげればいい。本人が関心を持ってトライできる環境を整えることが、コンピューターと高齢者が向き合うときに家族がするべきサポートだと唱える。
「誰かをあてにして生きていると、何も考えられない人間になってしまう。介護にしたって、血のつながっている子どもならまだしも、子どものお嫁さんをあてにするなんてもってのほか。“自分がそうだったから他人にも同じことをさせる”なんて、全く自立できていない悲しい人間ね」
意見を押しつける年長者とは違い、慣習に縛られないミゾイさんの柔軟さには学ぶことが多い。だからこそ、そのつぶやきが幅広い世代から支持を集めるのだろう。
「長年、専業主婦だった私が75歳を過ぎてからこういう形で注目を浴びるとは、夢にも思わなかった(笑)。私としては、人と違った特別なことをしているとは全然思っていないのだけど。ただ、小さいころから大人に“こういうものだ”って言われると、心の中では“それは違うんじゃないの”って思っているような人間だったし、他の人よりは自由に新しいものに接してきたとは思います」
いくつになっても自分のことは自分でして、自分から動くこと。それが大前提だというミゾイさん。
「まず、行動することですよ。私はそのおかげで、この年になってもこんなに元気なんですから」
<プロフィール>
みぞい・きくこ 1934年、埼玉県生まれ。お茶の水女子大学理学部卒業後、高校教諭(生物)に。26歳のとき結婚を機に退職。2人の息子と小学生の孫2人がいる。2010年1月からツイッターを始め2016年4月現在でフォロワーは6万8000人にのぼる。ミゾイさんの珠玉のつぶやきをまとめた著書『何がいいかなんて終わってみないとわかりません。』(KADOKAWA刊)が好評発売中。