『バッテリー』で描きたかった少年像

 30代で作家活動を始めて以降、「心地悪い」と疼きながら、身を引き締める意味でたびたび手をのばす本も。愚かな時代への憤りをぶつけた辺見庸のエッセイ『永遠の不服従のために』だ。

■『永遠の不服従のために』(辺見庸 著/毎日新聞社)

戦争、テロ、強者への服従―野蛮な世界をもたらしたものの正体とは。政治やジャーナリズムの堕落を面罵。醜悪な時代の暗部に憤りと抵抗の精神を綴った書。

「ラディカルな方で、本当に嫌な本ですよ(笑)。だけど、言葉の背後にある大きな経験、自分も含めた人へ踏み込むときの容赦のなさが伝わる文章が大好き。何かに負けて、流されそうになるとき、無性に読みたくなる。“痛い”という届き方、感動があることを辺見さんの本で知りましたね」

 刺さる言葉にマーカーを引きながら読む唯一の本で、タイトルの言葉『不服従』にも思い入れがある。

「私自身、中学時代にずっと服従して生きてきて、いまだに傷になっています。だから、『バッテリー』で描きたかったのは“服従しない少年”。たとえ大切な人を傷つけたとしても、思いを捨てられずに自分を貫き通す主人公だったんです」

 かつては読み手として、今は書き手として信じる、本の魅力について尋ねると、

「現実の世界と同等の上でも下でもない“もうひとつの世界”と出会えたときの感動。しんどいときに逃げ込める世界はいっぱいある、ってことを伝えたいですね」

<プロフィール>
◎あさの・あつこ
作家。1954年、岡山県生まれ。小学校講師ののち、作家に転身。'97年『バッテリー』で野間児童文芸賞、『バッテリー⑵』で日本児童文学者協会賞受賞。児童文学、ミステリー、SF、時代小説など幅広いジャンルの作品で活躍。近著に『I love letter』『天を灼く』