以降、桃子さんは勝手気ままに、自由に生きるべく、外見から変えていく。“ママだから子育て優先”と諦めていたネイルサロンやまつ毛エクステに時間を確保。
毎月1回は好きな映画を見て、3カ月に1回は観劇をする。コンパクトなピアノを購入し、レッスンも再開した。それと並行して、息子のサッカー当番、学校の役員も行う。以前と違い、ゆとりをもって参加していると、毎日が幸せになり、人を魅了する。
そこで、あるインストラクターが彼女に好意を持ち接近してきた。それが最初の浮気相手になる。
「彼は当時28歳で、私よりも7歳年下でした。息子のサッカーチームにときどき教えに来てくれる人で、可もなく不可もない顔立ち。地方の国立大学出身で、そこのチームのキャプテンをやっていたそうです。
本業が私と同じ保険業界だったので、練習の合間に雑談するうちに、“今度飲みに行きましょう”という展開になりました」
飲みには彼から誘ってきたというが、誘わせたのは桃子さんだ。
「すごい二の腕ね、と触ったり、笑顔がかわいいとホメたりしていました。あとは、サッカーについて、相手が熱く語るのをひたすら聞いていましたね。
決め手となったのは、私のボディタッチでしょうね。意図的に二の腕をギュッと握ったり、肩を触ったりしていました。練習後のミーティングのときなどに、気がつけば近くにいるように。そんな彼が飲みに誘ってきたので、それに乗ることにしました」
飲み会は震災から8カ月経った11月の土曜日だった。30歳手前で女性経験が少ない彼と恋愛関係になることは、赤子の手をひねるように簡単だったという。
桃子さんは17時に東京・上野のチェーンのダイニング風の居酒屋を予約。彼がオゴれる程度の客単価のお店をあえて選んだ。2軒目はワインバーに行き、こちらは桃子さんもち。そのまま湯島のホテルに行った。
それにつけても、35歳の2児の母に28歳の独身サッカー男子が恋愛感情を持つのは、レディースコミックの世界だけだと思っていた。
現実にそんなことが起こるのだろうかと勘ぐってしまうのは、モテない女のやっかみだろうか。そこで当日、桃子さんがどのようなファッションで行ったのかを、詳しく聞いてみた。
ブラジャーはチェリーピンクの“見せブラ”
「やはり、ちょっと相手が私のことをバカにできる、わかりやす~いモテファッションで行きましたよ。もともと、私もそういう甘めの服が好き。
当日は、胸元が開いた白のフワフワのニットに、紺のタイトスカート。ブラジャーはわかりやすくチェリーピンクの“見せブラ”にしました。自分でもやりすぎだろうと思ったけれど、そのくらい視覚的な刺激がないと、男は……特に今の20代の草食男子は誘ってこないと思いました」
恋愛やデートに個性と知性は禁物。そう割り切れるようになったのは、「私が既婚者だからでしょう」と自己分析する。独身女性は賢く思われたいし、身持ちが固いこともアピールしたい。
でも、それは結婚のため。不倫の場合は堂々とモテファッションを楽しみ、バカになれる。でも、“バカで男好きだと思われてもいい”と言い切れるのは、既婚者の余裕と自信が大きいのだろう。
沢木文(さわき・あや)◎Writer&Editor 1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(小学館新書)がある。