「同時に、多くの痴漢は自身の行為を正当化するために“痴漢神話”を作り出します。たとえば、彼らはプログラムの中で自身の痴漢行為を次のように説明します」
・最初は嫌がるが、多くの女性は痴漢されているうちに気持ちよくなる。
・こんなに惨めな思いをしたのはすべて女性のせい。だから痴漢しても許される。
・妻とは長らくセックスレスだから、痴漢に走っても仕方がない。
「動機が性欲」は少数派
とんでもない思考回路だが、彼らにとっては揺るぎない真実。ゆえに日常的に犯行を繰り返す。しかし、これは痴漢だけが信じている神話だろうか。被害女性に対して「露出度の高い服を着ているのが悪い」と思う人は少なくない。
身近な女性に「そんな格好をしていると、男性に何されるかわからないぞ」と注意した経験がある人もいるだろう。悪意はないにしても、これでは痴漢神話に取り込まれているも同然で、さらに言うなら痴漢行為を暗に許容しているともいえる。
性欲を持て余している男性が痴漢行為をする――これも社会に浸透している痴漢神話のひとつだと斉藤氏は断言する。
「駅のトイレなどでマスターベーションをして痴漢行為を完結させる人は、もちろん性欲という動機が背景にあると思われますが、実はこれは少数派。多くは行為中に勃起すらしていないという調査報告もあります」
痴漢は、性犯罪である。起訴されるときの罪状は行為の内容によって決まるが、大別すると、
・下着の中に手を入れる、抱きつくなど:強制わいせつ罪
となる。異性に無理やり性的接触をしておきながら、そこに性欲が介在しないとは不思議な話だ。では彼らはなぜ、痴漢をするのか。
「ひとつは“ストレスへの対処行動”という側面があります。仕事や家庭、人間関係でストレスを感じたら、多くの人は飲みにいったりスポーツをしたりドライブをしたり、自分なりに対処しますよね。でも自分より弱いものをいじめる、あるいは支配することで優越感を感じ、それによってストレスを軽減して心の安定を得る人たちがいます」
それは、痴漢が狙う女性像にも表れているという。「痴漢がターゲットとするのは、実は性的魅力が強い女性よりも、おとなしくて何をされても抵抗しなさそうな女性が多いです。そんな女性は被害を訴え出る可能性が低いので逮捕のリスクを避けるためもありますが、それよりも、支配しやすいと判断していると考えられます」。