遺骨は引き取られて数が減っていった。三回忌の’13年3月11日、男性はやってきて「まだ(不明遺骨が)残ってるんだな」と手を合わせた。住職が、
「じいちゃん、また同じ答えだけどさ……」
と言いかけたとき、骨箱の前に置いた小さな地蔵さまに目がとまった。北上市の女性が供養のためにと計400体送ってくれたものだった。
「じいちゃん、きょうはかあちゃんの骨渡すよ」
「おっ、くれんのか!」
はい、と渡した地蔵さまを男性はまじまじと見つめると、「かあちゃん、ちっちゃくなったなあ」と持っているビニール袋に大事そうにしまった。
「和尚さん、どうもな」
「じいちゃん、怒らないんか」
「かあちゃんと一緒に帰れるんだもん。怒ることねえべ」
それから男性はぱったり来なくなったという。
仙寿院には現在9柱の身元不明の遺骨がある。釜石市は’17年度中に高台の墓地公園に合葬墓地を整備する方針。別れのときが近づいている。
「娘はお水を取り替えてお菓子を供える。妻は毎朝ごはんの上げ下げ。お花をきれいにあげているのは私の仕事。おはよう、おやすみと挨拶して6年近く暮らしてきた。家族みたいなもんだからね」
名前のない無縁仏は救われるのか。芝崎住職は即答した。
「遺骨の身元がわかるか、わからないかで、亡くなった方が救われるか、救われないかが決まることなどありません。遺骨がだれであっても、私たちはその人の魂を供養しているのです。遺骨に心があるわけではない。心は家族とともにあるんです」
再び張り詰めた空気をときほぐすように芝崎住職は、
「歌にもあるじゃない。そこに私はいませんって」