バーの店長が振り返る。
「金がないのか、切羽詰まった感じはありました。愛嬌もあるし、敬語も使えるからまあいいかなと思ったんですが、全然ダメ。ガンガン飲ませればいいのに、安くしますよって優しい男を演じて接客する。
借金があるって話してましたね。酒を盗んで売った話も、何人かでやったけど自分のせいにされた、と。いろいろ言ってましたけど、まあクズな人間だなってのは、何となくにじみ出ていましたね」
祖父に関するやりとりもあったと店長が続ける。
「身寄りがおじいちゃんだけなんですっていうから、親代わりなんだから大事にしないとって話したんです。そしたら“本当にそうですね”って言ってましたよ。それが、こんなこと……。ニュースを見て、あぁやっちまったかって思いましたよ」
しばらくの間、ホストクラブとバーのアルバイト(通算出勤日数は10日未満)を掛け持ちしていた山本容疑者だが、昨年4月末ごろ、突如ホストクラブから姿を消した。
再び元同僚の話。
最期は孫に殺されるなんて…
「ワインを転売してもクビにしない優しい店で、給料もちゃんと払っていました。借金は100万円以上あったんじゃないですかね。ホストとして売れたら返してくれたらいいよって。ホストクラブから姿を消した後、バーに給料を取りに来たことがあって、バーの人から連絡をもらって連れ戻しに行ったことがあったんです。その夜、店の幹部に焼き肉をごちそうになって、もう1度やり直そう、と寮に一緒に帰ったんですが……」
朝になったらもぬけの殻。山本容疑者はすでに、建設会社に職を得て、その寮に身を寄せていたようだ。
元同僚が、次に山本容疑者の姿を見たのは、逮捕を伝えるテレビ画面の中だった。
「正直、びっくりしましたよ。犯罪に手を染めても窃盗ぐらいだと思ってましたから。89年生きて、最後は孫に殺されるなんて、心が痛みますよね。おじいちゃんにも俺たちにも、恩を仇で返して、本当のクズになったなって思いましたね」
祖父の財布から2万3000円を奪い2日後には自分の口座から給料の9万円を下ろしていたが、逮捕された際の所持金は15円だった。
わずかな額の金で命を奪い、自分の人生も台無しにしてしまった。
※文中の誤字を訂正して更新しました。