反面教師として読んでもらえたら
実家は母ひとり、子ひとりで、物心ついたときにはもう父親はいなかった、というツチヤさん。
「僕は大阪の団地で育ちました。母と2人暮らしで、今もそうです。小学生のころはマンガオタクで、母が働きに行ってたので、ご飯代と渡されたお金で、ご飯買わずにマンガ買ってましたね。お菓子よりマンガのほうが満たされる感じがあって。部屋の壁がぜんぶ本棚で、あまりのマンガの多さに家庭訪問に来た先生がドン引きしたくらいです(笑)」
当時は漫画家になりたかったというツチヤさんですが、次にお笑いとゲームにハマり、中学時代は「ネトゲ廃人(ネット上のゲームをやりすぎて廃人のようになること)でした」というくらい熱中していたそう。
「ゲームは毎月課金しないとそれまでのデータが全部消えてしまうんですけど、中3のとき、お金がなくて課金できなくて全部消えたんです。それで時間の無駄だったなと思って完全にやめて、その熱量を全部お笑いにぶつけるようになったんです」
学校へ行くとゲームができないため、中学生のころから朝にお題をいくつも考え、授業中はそのお題に対してひたすらボケを考えてノートに書くという毎日を過ごしていたというツチヤさんは、高校に入るとそれを本格化させます。そのムチャクチャな毎日は、小説で詳しく描かれています。
「僕は高校へ行くつもりなかったんですけど、オカンがとにかく高校だけは出てくれ、高校さえ出てくれれば、犯罪以外なら何やってもいいと言われて。僕が仕事せずにいても基本、放置だったんです。この連載が決まったときは、よかったね、と言ってくれましたけど(笑)。なので、この小説は、こんなふうに息子を育てないように、という反面教師として読んでもらえたら(笑)。まあなるようになっていくと思うので、放置でもいいのかなって思うんです、もし、お子さんが引きこもりみたいな状態だとしても。実際に僕もなんとかなりましたし……なりかけ、ですかね?(笑) でも、これを残せただけでもよかったなと思ってます」
【取材後記】著者の素顔
本書は冒頭に「母に捧ぐ」とあり、お母様への愛が込められているのですが、ご本人はあまり読書をしないタイプで、ピンときていないそう。
「サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』にもあって、と言っても “わからん” って(笑)。でも『週刊女性』は知ってるので、もしこれを見たら喜んでくれるかなと」。ちなみにお母様からは「印税が入ったらダイソンの掃除機を買って」とお願いされているそうです。
<プロフィール>
つちや・たかゆき 作家、ニート。1988年大阪府生まれ。高校卒業後、テレビやラジオに投稿するハガキ職人として名を馳せ、数々のアルバイトを経て某芸人による招聘で上京し、漫才の構成作家となるも突然逃亡。大阪へ戻り、ニート生活とアルバイトを行き来する日々を送りながら、小説を書き上げて現在に至る。エンタメ系の仕事なんでも絶賛募集中。