若いほどいいというワナにはハマらないで
本著はトピックごとに細かく段落が分かれており、どのページからも読み始められるので、活字が苦手な人でも楽しめます。
「ベッドの前に置いて、パッと広げてひと段落読んでから寝るっていう人もいました。ちょっと私の口のきき方が、なれなれしいかなと思う部分もあるんだけど……え? おばあさんの特権だから直さなくていい? フフ、それはすごいわね。そうね、おばあさんはオールマイティー。なんでも許される存在ですものね」
田村さんのポジティブな姿を見ていると、「おばあさんって素敵な存在だな」と自然に思えてきます。しかし現実問題、日本においては“若い女性ほど美しく価値がある”という考えが一般的なのでは。
「日本は男性の目も大いにあるから、確かに若くないと値打ちがないっていう発想があるわね。でもそれは罠だから、ひっかかって躓いてはダメ。要はピークをどこに持っていくかじゃない? 私はラッキーなことに若いころからおばあさんに憧れていたけれど、そうじゃない人もこれからおばあさん時代にピークを定めれば、その前は助走っていうかね、どうってことないのよ」
年とともに衰えるという考えから、自由になることで得るものも多いようです。
「おばあさんになった自分には“ボンジュール、おばあさん”って挨拶したらいいわ。おばあさんはね、怖いものがないの。泥棒なんかが入ってきてもね、おばあさんは平気。“お茶でも飲んでいきなさい。ただお金だけはないから、あなたもちょっとは勘を磨きなさい”って言えばいいの」
ちなみに理想とするのは、ちょっと“ハードボイルドなおばあさん”だそう。
「ポッケにお財布と手帖を入れて、プラッと図書館に行ったり、バーで“いつもの”って頼んでクイッと飲んだりするの。カッコよくて憧れます。素敵なおばあさんは何があっても慌てないミステリアスな存在で、ハードボイルドなのよ」
若い女性には、そのときだけの魅力があるように、おばあさんになったら、そのときにやっと得られる魅力がある──そう思えば、加齢=人生を諦める、ションボリするという暗い未来から抜け出せそうです。
「もう1度言います。おばあさんは誰でも魔法が使えるから、それを自覚してほしい。空を飛べるかって言われれば……そうね、もう少しで飛べるくらいの可能性はありますよ。フフッ」
取材・文/中尾巴
<プロフィール>
たむら・せつこ イラストレーター、エッセイスト。1938年、東京都生まれ。高校卒業後、銀行勤務を経て松本かつぢの紹介でイラストの道へ。'60年代に『りぼん』や『なかよし』のおしゃれページで活躍し、'70年代には “セツコ・グッズ” で一世を風靡。以降、現在に至るまで名作物語の挿絵やイラスト&エッセイを手がけ、著書多数。