人間観察、メモもしない感覚と無邪気な思いつき
新米弁護士の成長を描いた朝ドラや刑事もの、14歳で妊娠・出産する少女の物語、鎌倉時代の武士が主人公の大河ドラマ、不倫に堕ちていく男女の話など、幅広いジャンルの作品を生み出す井上さん。
ドラマのアイデアは、どんなところから生まれるのでしょう?
「こういうことが起こったら怖いなとか、こんな人に会ってみたいなという、日常で思うことで作っています。ネタ探しのために取材をするとか、人間観察もしないです。でも、電車に乗っているとき、隣の人のため息が妙に気になるときってあるじゃないですか。この奥さん、何かイヤなことがあったのかなって。そういう感覚は大事にしています。
ただ、メモを取ったりしないんですよ。字にしてしまったことって、どっか一拍遅いんですよね。理屈で探すより、洗濯物を干しているときなんかにふと浮かんだ、“あっ、こんな可愛い女の恋を描いてみたいな”とか“こういう面白い男が活躍する話を書きたいな”という無邪気な思いつきのほうが、伝わる気がしています」
そんなさまざまなジャンルを描く井上さんを“なんでも屋”と、揶揄(やゆ)する人もいるんだとか。
「あれこれ手をのばさず、得意なジャンルを決めて勝負したほうがいいと叱咤(しった)してくれる人もいますよね。欲張りだぞって(笑)。私としては、いつも“こんな人を描きたいな”という気持ちから出発しているので、つながっているんですが。それが今回は、鼻っ柱の強い女といぶし銀のおじさんたちのチームものを書きたいと思って、キントリになりました。ジャンルより、そのときどきの“見たい”を優先してしまうんです。ただ、“今っぽさ”は必ず入れるように心がけていますね。キントリだと“可視化”です。
別に社会派を気取っているわけではないんですが、テレビって基本的には流れて終わりなので、今だから見られるものを作りたいんです。そして、やはりテレビを見てくれる人の気持ちがノれることが大事で、そうなるには私自身が“これはどういうことなんだろう?”と、ノッて書けることがいちばんなんじゃないかと思います」