「いつも午前中配達の時間指定をしますが、きちんと10時台に届けてくれるドライバーもいれば、毎回12時10分とか遅れる場合もある。たいした差じゃないけど、時間指定のサービスを謳(うた)っている以上は守ってほしいですよね!」(50代・主婦)

 私たちの生活に欠かせないインフラとなった宅配サービス。その取り扱い個数はネット通販事業の拡大で急増し、ドライバーが荷物をさばききれない状況に陥っている。時間指定のサービスも維持が難しくなってきたのは、そのためだ。

 今やネットで購入するものは書籍や日用品、食品や衣服にまで及ぶ。なかにはこんなヘビーユーザーも。

「洋服はリアル店舗で試着して色みとサイズを確かめますが、店舗では購入せず、同じものをネット通販サイトで注文してポイントを貯めます」(30代・会社員)

 送料無料、ポイント還元、翌日配送……。ネット通販には、消費者を誘惑する甘い言葉が氾濫している。

「’92年に約12億個だった宅配業者の年間取り扱い個数は、’14年には約36億個と22年で3倍になった。’34年には60億個に達するといわれますが、私はもっと早いと予想しています」

 そう語るのは、物流コンサルタントの角井亮一氏。

「事の発端は、2000年のアマゾンの日本上陸です。そこから送料無料のネット通販に火がつき、最近ではスマホ注文で個数が飛躍的に上がっています」

取り扱い量、年間18億個でヤマト悲鳴

 現在、宅配業界はヤマト運輸が約5割、佐川急便が3割強、日本郵便が1割強と3社でシェアの9割以上を占める。つい最近までヤマトと佐川は取り扱い個数を競い、しのぎを削るシェア争いを繰り広げていた。

 ヤマトや佐川での潜入ルポを発表したジャーナリストの横田増生氏は言う。

「アマゾンの荷物は’05年ごろから佐川が運ぶようになりました。激安の運賃で。佐川は下請けを叩いて乗り切ろうとしたんですが、それでも利益が出ない。業を煮やした佐川が’13年にアマゾンに値上げを交渉するも決裂。佐川はアマゾンから撤退し、その後をヤマトが引き受けた。現在、ヤマトの取り扱い量は年間18億個くらいで、うち3億個がアマゾンといわれています」

アマゾンの運賃は業界最安値といわれ、取り扱い高が増えれば増えるほど単価が下がる“豊作貧乏”に
アマゾンの運賃は業界最安値といわれ、取り扱い高が増えれば増えるほど単価が下がる“豊作貧乏”に

 しかし、その運賃は業界最安値といわれ、取り扱い高が増えれば増えるほど単価が下がる“豊作貧乏”(図参照)。これがドライバーの過酷な労働を招いたと横田氏は指摘する。

「アマゾンが入ってきて、ドライバーたちは昼休みさえ取れなくなった。単純労働では、次の休憩時間までなんとか頑張ろう、というのが唯一のモチベーション。あと1時間、あと30分と時計を見ながらやる。その休憩が朝の7時から夜の10時までまったくないんですよ。それも1年、2年と続くと恨みは募りますよ」