(ノンフィクション・ライター 菅野久美子)
今回紹介するのは、都内の広告代理店に勤める独身女性、鈴木美央(仮名・33歳)だ。彼女は、同い年の妻子持ちと現在不倫関係にある。
「自分が相手の奥さんだったら、一番嫌なことをしていると思う」
「もしあたしと翔太君が奥さんより先に出会ってたら、絶対に結ばれていたって思うんですよ。ほんと、出会うタイミングって残酷だと思う。私たち、肉体関係はないんです。いわゆる、“プラトニック不倫”。だから法的には不倫関係じゃないよねって突っ込まれたら、それはそうだと思います。でも、自分が相手の奥さんだったら一番嫌だと思うんですよ、心で繋がっている関係って」
美央は初恋の人について話すみたいに無邪気な笑みを浮かべた。
東京、渋谷――。土曜の午後3時、家族連れが楽しそうに行き交う休日のセンター街。そこに少し急ぎ足気味で現れたのが美央だった。
年の割には童顔なので、本人だとはすぐには気づかなかった。芸能人に例えると広瀬すず系の美人になるだろうか。白のブラウスの上に、落ち着いた黒のジャケットを羽織り、紺色のフレアスカートといういでたち。大手企業の受付嬢の一人と言われても遜色のない、とても魅力的な女性である。
容姿を褒めると、「元祖妹系ってよく言われるんですよ」と照れた。
美央が勤めている広告代理店は、完全週休2日制。年俸制のため残業代は出ない。それでも勉強のために休日出勤しているのだという。驚いていると「あたしって、根っからの社畜体質なんですよね」とつぶやいた。
不倫相手は、妻と2人の子持ちの園田翔太(仮名・33歳)。大手広告代理店に勤める同い年のSEだ。翔太との出会いは、業界研究のセミナー。そのワークショップでたまたま同じ班だったのが、翔太だった。集団作業の中で、リーダーシップを発揮している姿がカッコよかったのだという。
「翔太君が結婚していたのは、最初から知ってたんです。自己紹介タイムで、赤ちゃんが生まれたばかりで、もっと稼がなきゃいけないんですって喋っていたから。聞くところによると、奥さんは専業主婦で働いたことないから、仕事の愚痴を言っても分かってくれないみたいですね」
美央は、セミナー終了後、同じグループの全員とFacebook友達に。他のメンバーとは連絡がすぐに途絶えたが、翔太とはすぐに意気投合し、Facebookのメッセンジャーを通じて仕事や家庭の愚痴を言い合う仲となった。