児童相談所のおかれている現状に理解を示す声は大きい。いわく、人手不足、権限がない、予算が足りない。ないないづくしだから機能しないのは当たり前だという。本来は子どもの立場で考えるべきであって──。《取材・文/山嵜信明》

「いま、児童相談所(以下、児相)のあり方に対する論議が巻き起こっています」

 と一橋大学の水岡不二雄名誉教授(68=経済地理学)は切り出す。

 きっかけは今年1月、千葉県野田市の小学校4年生・栗原心愛(みあ)ちゃん(10)が父親から暴行を受けて虐待死した事件だった。心愛ちゃんをいったんは児相が預かり、両親のいる自宅に帰せば虐待の危険性が高いと認識していたにもかかわらず、自宅に戻すという不手際があったからだ。

 児相は、児童福祉法に基づき、都道府県や政令指定都市など全国69自治体で計212か所に置かれている。虐待だけではなく、障害や不登校、非行などの相談に乗る施設である。

「こういった虐待事件が起きるたび、“児相は1人の職員が数十人もの問題があるケースを抱えていて大変だ”とクローズアップされ、児相側も、人手が足りないとか、予算が足りないといった言い訳をする。マスコミもその論調に乗っかって、児相の人員を増やせ、予算を増やせとなるのが常でね。マスコミは、官庁の意にそぐわないことは言わないだらしない権力追随型。報道の自由度で世界67位の国たるゆえんです」(同教授)

 児童虐待の相談件数は年々増加しており、児相は施設数も職員数も、そして予算も増え続けている。関連項目のデータを約20年前と比べると、その拡大ぶりがよくわかる=※下の表を参照。

 

 ところが、水岡教授は、

「そもそも児相はいらない。不要だと思うんです」

 と、世論とは異なる持論をぶち上げる。いったい、どういう理由からなのか。