昨年9月、日本で初めての女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」が誕生した。その初代チェアは元サッカー選手の岡島喜久子さん。女性がサッカーをやることは“キワモノ”扱いされていた'80年ごろから、サッカーを愛し貢献し続けてきた。国際大会に出られず悔しい思いをした日から今日に至るまで──。
2021年9月、WEリーグ開幕
2021年9月22日午前10時、ドーム型サッカー競技場、ノエビアスタジアム神戸で歴代の女子サッカー選手たちが願い続けた日本初の女子サッカープロリーグ、WEリーグ(ウィーリーグ)開幕第1試合が行われた。
照明が落とされた美しい天然芝のグラウンドに、WEリーグオリジナルのアンセム(賛歌)が響き渡る。作曲したTUBEのギタリスト、春畑道哉さんによる生演奏だ。エレキギターの旋律が競技場の空気をキリッと引き締める。
その歴史的瞬間を見つめながら、あふれそうになる涙を堪(こら)えていた1人の女性がいた。
「音楽の力はすごい。開幕までにアンセムは何度も聴いていたのに、聴くたびに感動して涙が出ちゃう。あの生演奏は心が震えました。こうしてアンセムのことを話しているだけでも泣きそうです(笑)」
そう話すのは、岡島喜久子さん(64)、WEリーグ(公益社団法人 日本女子プロサッカーリーグ)の初代チェアだ。
「日本の女子スポーツの新しいページが本日開きます。ウーマン・エンパワーメントという名前で、日本のジェンダー平等を前に進める覚悟のリーグです。世界一の女子サッカーと、世界一の女性コミュニティーの実現に向けて。そして、多様な生き方と夢が生まれる社会を目指して。みんなが主人公となるために、WEリーグがステージとなります」
そう高らかに開幕を宣言した岡島さんの胸には、アンセムの旋律に引き出された積年の思いが渦巻いていた。
「中学生のころからサッカーをしてきましたが、当時の練習場所はほとんどが河川敷。土のグラウンドでドロドロになって練習しました。そのまま電車に乗って家に帰ることもあったし、バスタオルを3人で広げて目隠しを作り、その中で着替えたことも。試合をするにも対戦チームもいないような時代でした」
岡島さんがサッカーに出合って50年近くになる。当時、女子選手は珍しかった。
「1980年代くらいまでは、取材を受けてもアスリートとしてではなく完全に『キワモノ』扱いだったんです。記事に書かれる言葉は『ボイン』や『オシリ』──。
胸トラップは腕で胸をかばってもいいなんてルールもあって、ばかにされていると感じていました。あれから何十年もかかって、女子サッカーはようやくプロスポーツになった。素晴らしいスタジアムで、観客の声援を聞きながらプロとしてサッカーできる環境が整った。本当に感慨深いです」