目次
Page 1
ー 欲望の臭気に満ちた新宿・歌舞伎町の中で
Page 2
ー 『Colabo』は少女の孤独と絶望を見つけ出す
Page 3
ー ネット上のデマから激化した妨害
Page 4
ー コラボ側が領収書を「提出拒否」した理由
Page 5
ー フィリピンで気づいた搾取の構造
Page 6
ー 東日本大地震・被災地の高校生と「コラボ」で支援
Page 7
ー 気がつけば死ぬことを忘れていた
Page 8
ー しつこさはヤミ金以上

 

 路地から路地へ─。目の前を行くピンク色のコートを私は追いかける。慣れ親しんだ家の近所を散歩でもするかのように、彼女は飄々と夜の街を進む。

欲望の臭気に満ちた新宿・歌舞伎町の中で

 2023年が始まったばかりのある日。時計の針は日付をまたごうとしていた。歌舞伎町(東京・新宿区)がもっとも歌舞伎町らしい表情を見せる時間。仁藤夢乃さんは欲望の臭気に満ちた街路の中にいた。

 おぼつかない足取りの酔客をするりとかわし、近寄る客引きを無言ではねつける。

 突然、仁藤さんが足を止めた。彼女の視線のその先に、キャリーバッグを手にした少女が立っていた。不安げな表情と、夜の冷気を避けるようにすぼめた肩が、“場慣れ”していない空気を全身から発散していた。

 仁藤さんは、すっと少女に近づく。

「ごはん、食べてる?」

 唐突な問いかけに、少女は戸惑いの表情を見せる。

女性だけでやってる無料のカフェがあるんだけど、よかったら来てみる?」

 えっ、えっ、何なの? 少女の胸の中に渦巻いているであろう疑念と興味が、少し離れた場所で見ているだけの私にも伝わってくる。

 数分後、少女はキャリーバッグを転がしながら、仁藤さんの後をついていった。

 どうやら「推し」のホストと待ち合わせの約束をしたものの、すっぽかされたらしい。この街ではけっして珍しくはない小さな悲劇から、時に大きな悲劇に巻き込まれることもある。“事件”の手前で、若い女性の手を握る。それが仁藤さんの役割だ。

 新宿区役所の前に辿り着くと、ピンク色のバスと同系色のテントが目に飛び込んでくる。そこが仁藤さんの夜の活動拠点である「バスカフェ」だ。

バスカフェでは無償で食事や飲み物を提供、Wi-Fiの利用やスマホの充電も可能。(撮影/山田智絵)
バスカフェでは無償で食事や飲み物を提供、Wi-Fiの利用やスマホの充電も可能。(撮影/山田智絵)

 ここでは食事や飲み物などが少女たちに提供される。Wi-Fiも完備。コスメ、生理用品、下着や避妊具に至るまで、少女たちが夜を生き抜くために必要なものもそろっている。歌舞伎町で定期的に開催される「バスカフェ」は、行くあてのない少女たちの居場所であり、あるいは性暴力や性搾取の被害女性にとっては逃げ場所として機能する。

 要望があれば、公的機関にもつなげるし、泊まる場所がないと訴える少女がいれば、宿泊施設やシェルターにも案内する。

 運営しているのは仁藤さんが代表を務める一般社団法人『Colabo』(コラボ)。メンバーのほとんどは女性だ。開催中はメンバーによる「声かけチーム」が夜の雑踏を歩き回り、困っている少女に「バスカフェ」の存在を知らせる。

 私も何度か、この活動に同行した。見慣れた歌舞伎町の風景の中に、これまで私が意識することのなかった人たちの姿があった。

 疲れ果てた10代少女たちである。