東京・千代田区北の丸公園にある日本武道館─。収容観客数は、およそ1万人。多くのミュージシャンの憧れの地である。
そのステージに、たった1人で立ち、マイクを握る女性がいる。
バックのスクリーンに『筒美京平名曲メドレー』というタイトルが現れ、音楽が鳴り響く。
「モノマネの女王」清水ミチコ
1曲目は、いしだあゆみの『ブルー・ライト・ヨコハマ』、鼻にかかった声が似ている。続いて「誰もいない海~」の歌い出し。おお、南沙織の『17才』ではないか。やたらビブラートのかかる歌声。確かにそうやって歌ってました。そして浅田美代子の舌足らずで、少し(かなり)調子の外れた『しあわせの一番星』、ああ、ドラマ『寺内貫太郎一家』の劇中で歌われた曲だ。そして平山みきのクセの強い『真夏の出来事』、よく歌詞が聞き取れない麻丘めぐみの『わたしの彼は左きき』、極端な舌足らずで太田裕美の『木綿のハンカチーフ』……。
老若男女であふれる武道館の大ホールは、爆笑の渦。曲や歌手を知らない世代も手をたたいて喜んでいる。
スポットライトを浴びて歌っているのは、「モノマネの女王」と称される清水ミチコ(63)。
これは、2021年に東京・日本武道館で行われたライブ・コンサート『清水ミチコBEST LIVE 2021~Go to武道館withシミズ~』のワンシーンである。旬な時事ネタ、ピアノの弾き語りはもちろん、おなじみの「作曲法」なども披露。
翌年の『清水ミチコリサイタルin武道館~カニカマの夕べ~』では、瀬戸内寂聴さんの語り口で「平家と源氏」というタイトルでAdoの『うっせぇわ』を引っ張り出し、『まんが日本最近ばなし』は、もちろん『まんが日本昔ばなし』のパロディー。さらに「松任谷ユーミソ」という名で、まるきりユーミン(松任谷由実)の歌声で歌う『カニカマのテーマ』。ちなみに清水は自分の芸を、本物に近いが実は偽物の「カニカマ」と命名している。それにしても、しゃべり方までユーミンそっくりである。
'13年開催の「国民の叔母・清水ミチコの『ババとロック』in 武道館」から始まった彼女の武道館コンサートは、もはや年始の風物詩となっている。
これまで実に9回、来年の1月3日で10回を数える。
それにしても、たった1人で1万人を相手にするとはどういう感覚なんだろう。怖くはないのか。忙しいリハーサルの合間に清水がインタビューに答えてくれた。
「基本的に1000人以上は同じなんです。1人に勝てれば大丈夫。気負けすると緊張してしまいますけど、視線に負けるというかね。初回はプレッシャーがあったからいろんなゲスト、お笑い芸人さんなどに出演してもらいましたけど、2回目からは1人でトライしています」
さまざまな芸能人のモノマネ、さらにピアノの弾き語りモノマネ、顔マネなどで知られる清水。そのレパートリーはすさまじい。
大竹しのぶ、黒柳徹子、小池百合子、桃井かおり、平野レミ、瀬戸内寂聴さんなど、100人を超える。弾き語りモノマネでは松任谷由実、森山良子、矢野顕子……。それも単に似ているだけではなく、本人がいかにも言いそうなオチで爆笑を巻き起こす。
モノマネの上手な人や芸人は数多いが、清水の場合は単に似ているだけではない。その話し方、歌い方はもちろん、歌い方のクセを極端に演じ、聴くこちら側をニヤリと、時には大爆笑を誘うのだ。今回の全国ツアータイトルは『清水ミチコアワー ~ひとり祝賀会~』。
「基本的には、ピアノの弾き語りのモノマネや歌マネが中心ですね。新しいところでは、『新しい学校のリーダーズ』のネタで『新しい仏教のリーダーズ』というのを瀬戸内寂聴さんの語りでやります(笑)」