目次
Page 1
ー 音が生み出す巨大な神の言語装置
Page 2
ー 冒頭一文の深さを味わう
Page 3
ー 名作タイトルあてクイズ!
Page 4
ー LEVEL2:この書き出し文のを埋めよ

 名文は、名イントロにあり!古典の名作の書き出しの一文は、必ず印象的なもののはず。なぜってその一文で、名作かどうかはすでに決まっているから。現代の作家たちも口をそろえて言う「初めの一文で、良作になるかどうかが決まる」――。日本の名イントロ20選、秋の夜長にお楽しみあれ!

「イントロで、時空を超えた世界へ」(山口謠司先生)

 名文は、書き出しで決まります。作家の自筆原稿をよく見る機会がありますが、この小説はすごい!おもしろい!最後までグイグイ引っ張ってくれるに違いない!

 賞を取りそうと感じるものは、書き出しの一行目でほとんどわかります。

 冒頭の一行は、読者を一瞬でまったく現実とは違う異世界へ誘(いざな)う力があるのです。小説だけではありません、随筆だって、和歌だって、俳句だって同じです。冒頭の言葉の持つ力って、本当に、すごいんです!

 古今東西、冒頭の一文こそ、作家の力量と、魂の込め方によって現れる時空を超えた普遍の力なのではないかと思います。

音が生み出す巨大な神の言語装置

 文献学者、J・A・コメニウス(1592〜1670年)が、ポーランドで出版した『最新言語教授法』という名著を紹介したいと思います。

 この本のタイトルに見える「最新」は、もちろんすでに「古ぼけたもの」になってしまっていますが、「言語」をどう考えればいいかということを、当時、多くの人に教えた画期的な本だったのです。

はたして文章は、天から降ってくるのか、地から湧いてくるのか、はたまた作家の力で作り出すことができる性質を持っているのか? そんなことを、ものすごくまじめに書いているのです。

 みなさんの中に、作家になろうと思って小説や随筆を書いたことがあるという人もいるのではないでしょうか?

 文章は、どんな感じで、筆記用具や、キーボードから生まれてきますか?

 コメニウスは、こんなふうに書いています。

《人間の言語は、神の知恵である。神は、我々には具体的に見えない、巨大な言語装置を持っていて、それには、完全な事物名称リストと、詳しい意味を記述した辞書、そして言葉を結合していくための詳細な文法規則集が備わっている》

 はて、今から300年以上も前の神学者の「言語論」なんて読んでもよくわからないと思われるかもしれませんが、コメニウス、とっても大事なことを言っているんです。

 読者にとっても、そして書き手にとってもです。

 それは、何か。

 言葉は、人間が口から発する音によって生まれるもの。その言葉を口から発する時には、なにか閃(ひらめ)きのようなイメージがあるでしょう。

 一言、その言葉を出すと、それが短い文章のようになって、だんだんと連想を広げて、その言葉を核にして、大きな宇宙が広がっていくんだと。それが、神の巨大な言語装置というものだと。

 とすれば、つまり、作家の書き出しの一文は、その作品を形づくる「核」なのです。