「腰痛の原因が特定できない約80%弱の患者さんは、ストレスによって痛みを引き起こされています」
こう語るのは、福島県立医科大学の大谷晃司教授。
「そもそも痛みの程度は個人の主観によるところが大きい。他人には判断ができず、本人が“腰が痛む”と言えば、医師としては腰痛と診断するほかありません。例えば、腰痛の度合いを10とした場合、痛みでまったく動けない人もいれば、日常生活に支障がない人もいます。また、そのうちの5程度が治療によって改善されて、“ラクになった”と感じる人もいれば、9ほど改善されても“まだ痛む”という人もいるのです」(大谷教授)
こうした違いは性格や考え方、ストレスの感じやすさなど個人の性質にかかわる。生まれてから今までに培ってきた性質を変えない限り、痛みの度合いや感じ方は変わらないのだ。
そこで、大谷教授が東京大学医学部付属病院麻酔科・痛みセンターの精神科医、笠原諭助教とともに行っているのが『認知行動療法』だ。やり方は、その日に起こった出来事の詳しい状況・思考・行動を、日記やノートに書くだけ。
「写真のように、自分がストレスを感じたときの状況と、そのときに自分がどのような思考と感情を抱いたか、どんな行動をとったかを書きます。次に、一連の状況を客観的に分析して、どうすればストレスを軽減できるか、新たな考えや行動を書いてみるのです」(笠原助教、以下同)
日記を続けることで、自分の感情やストレスを腰痛と結びつけて分析できるようになり、思考や行動をあらためられるのだ。
「自分がどんなときに“回避行動”をとるのか知ることも重要です」
回避行動とは、人との付き合いのなかで、衝突を回避するためにとる行動のこと。短期的にはストレスを避けられているものの、長期的には逆に大きなストレスになっている……そんなケースが多いという。
「例えば、つくり笑顔をしたり、無理な頼み事を引き受けたときに腰痛が生じる。痛みも増幅したりする。自分の感情と行動にギャップが生じた場合、大きなストレスが生まれるからです。日記をつけて、回避行動が生じるときのパターンをつかむことができるようにします」
また、腰痛に効果があるといわれる軽度の運動を記録することも大切。自分にはどんな運動が適切かをよく知り、“散歩をしたら具合がよくなった” “今日は15分もストレッチをした”などと、運動できた自分をほめる。
それにより、運動に対するモチベーションが維持でき、痛みの改善にもつながる。
前出の大谷教授によれば、認知行動療法に取り組んだ人の7~8割が改善を実感しているという。
「原因不明の腰痛の陰には、大きな疾病が隠れていることも。医師の診断を受けたうえで心因性が疑わしい場合に、認知行動療法に取り組んでみてください」
※監修
大谷晃司教授●福島県立医科大学医学部整形外科学講座教授。神経精神科と連携し腰痛治療を実践している医師。テレビなどでも活躍する腰痛の名医
笠原諭助教●東京大学医学部付属病院麻酔科・痛みセンター所属。認知行動療法を記した『しつこい痛みは「日記」で治る』(廣済堂出版)が発売中