誠意を尽くせば、必ず報われる場所
入社から1年が過ぎた。
その間、久田の奮闘ぶりを見てきた師匠は、驚く提案をした。「独立して、自分の会社を作りなさい」と。
「女性の第三者検証会社を作るのが、師匠の長年の夢で、私なら実現できると、見込んでくれたんでしょうね」
水商売で培った豊富な人脈と、持ち前の行動力には自信がある。断る理由はなかった。
2003年、ヴェスを立ち上げた久田は、経理や総務の経験者を雇い、組織を固める一方で、検証を行う検査員の採用にも力を注いだ。
「徹底した検証力が信用につながる。だから、検定試験や育成プログラムを導入して、一からプロと呼べる検査員を育てていったの」
検査員のひとり、川綱正美さん(53)が話す。
「12年前に夫を亡くし、2人の子どもを育てるために、仕事を探していました。ヴェスの求人情報に、“無料でパソコンを教える”とあり、これだ! と。採用面接の席、専業主婦で仕事のブランクがある不安を伝えると、久田社長は、“資格や職歴だけがスキルじゃない。主婦業、子育ても立派なスキルだよ”と言ってくれて。やる気さえあれば、本気で育ててくれると確信しました」
従業員150人のうち、3割を女性検査員が占める。女性ならではの丁寧でこまやかな検証技術も、ヴェスの強みのひとつだ。
むろん、経営は順調なときばかりではなかった。
「当初は、師匠の会社からも仕事を回してもらったけど、リーマンショック以降は、それもアテにできなくなった。でも、これで逆に腹をくくれたの。それこそ、社員一丸となって営業にかけずり回り、仕事を開拓したから。不景気のとき、攻めに徹したからこそ、自社で100%の仕事を受注できる会社に切り替えられたんだと思う」
4年前には岩手県滝沢市に拠点を作った。社内には「中国に作るべき」という声が上がったが、「日本人を雇用してこそ、日本の経営者だ!」と譲らなかった。
「社員は家族と同じ。だから不景気のときも、ひとりもリストラしなかった。その思いが伝わって、一致団結して不況を乗り切れた。ホステス時代は、騙すか騙されるかだった。でも、この業界は、誠意を尽くせば、必ず報われる。ほんと、いい場所にたどり着いたと思ってる」