みんなが主役になれる場所を目指して

「タウンモビリティステーションふくねこ」のある商店街。誰もが楽しく出かけられる街づくりを目指す 撮影/吉岡竜紀
「タウンモビリティステーションふくねこ」のある商店街。誰もが楽しく出かけられる街づくりを目指す 撮影/吉岡竜紀
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 仕事に奔走しながら、和泉さんは、住宅改修を通して出会う人たちの「家は住みやすくなっても街には行けない」「本当は買い物に行きたい」という声が気になっていた。

「住宅だけでなく、誰もが安心して出かけられる街づくり」が新たな目標となった。

「福岡県久留米市のタウンモビリティの視察に行き、代表理事の吉永美佐子さんに思いを話すと、惜しみなくノウハウを教えてくださいました。高知では住宅改造アドバイザーやタウンモビリティの取り組みは先駆的と言われることもありますが、芳村さんも含め、全国にはそれぞれの分野で先駆者がいらっしゃいます。そのみなさんに教えてもらいながら、なんとか今がある。ふくねこが活発に活動できているのも、仲間をはじめ、利用者やボランティアのみなさん、商店街のご協力があってこそ。本当に、私ひとりでは何もできないんですよ」

 高知でのタウンモビリティは2011年、年に2回、イベントで活動するところから始まった。2年前からは商店街の空き店舗が常設となり、現在に至る。高知県と高知市が家賃補助を行い、高知大学や高知県立大学の学生たちのボランティアサークルも関わり、安定した運営ができるようになった。

「利用者のみなさんがいろいろなアイデアを出してくださって、さまざまなイベントも生まれています。これからも、みなさんと無理のない範囲で活動を広げていきたい」

 ふくねこの設置を応援してくれた京町・新京橋商店街振興組合理事長の安藤浩二さんは、「ふくねこ」の活動をどう見ているのだろうか。

商店街は物を売るだけの場所ではないと思っています。人の交流の場、地域貢献の場です。僕たちもそのお手伝いができることは大変うれしいことです。

『ふくねこ』は特別な存在ではなく、街に溶け込む日常になっている。それがまたいい。笹岡さん自身もハンディキャップがありますが、気負わず、人との接し方も非常に自然。とてもエレガントな方だと思います」

「20歳まで生きられるかどうか」と言われていた宇賀智子さんと。成人の記念に着物を着て、和泉さんも一緒に車イスで街を回った
「20歳まで生きられるかどうか」と言われていた宇賀智子さんと。成人の記念に着物を着て、和泉さんも一緒に車イスで街を回った

 もうひとり、和泉さんに大きな影響を与えた人がいる。宇賀智子さんだ。智子さんは、和泉さんが高校卒業後の入院時に病院で出会った5歳の女の子。8月で32歳になる。先天性せき柱側湾症、先天性中隔欠損症を患っており、現在は高度肺高血圧症も併発して酸素吸入が欠かせない。

「当時、小さな身体で頭にビスをつけて牽引されていました。本当に大変な状況だったのに笑顔で慕ってくれたのがうれしかった。その後もご縁があって、友達として何か応援したかったんです」

 智子さんの母である宇賀恵子さんは、和泉さんへの感謝の気持ちを「智子の成人式には、商店街の呉服屋さんに相談し、セパレートの着物を作ってもらい和泉ちゃんが一緒に街を歩いてくれました。今も毎月童謡教室を楽しみに出かけています。人が大好きなので、街に出ていろんな人と関わることが智子にとっては本当に生きる力になるのです」と語り、「ふくねこ」についても、こう続けた。

「障害があってもなくても、いろんな世代の人が日常のこととして関われる場所がふくねこです。ふくねこのその思いが、街全体に広がっていくといいなと思います」

「ふくねこ」が目指すのは、お互いが当たり前にサポートでき、声をかけ合うことができる場所。みんなが主役になり、お互いさまで誰かの役に立つ喜びを感じられる場所。

 和泉さんは、そこに集まる人たちが無理をすることなく自然に笑顔で過ごせることを願っている。これからも和泉さんの周りには、笑顔が広がっていきそうだ。

取材・文/太田美由紀

おおた・みゆき フリーライター、編集者。子育て、教育、福祉など「生きる」を軸に、対象に肉薄する取材を得意とする。取材対象は赤ちゃんからダライ・ラマ法王まで。信条は「職業に貴賤なし。人間に貴賤なし」。家族は思春期の息子2人とキジトラの猫。今年1月、独学で保育士の資格も取得。