いま、自由研究にも通じる『探究ラボ』という新しいスタイルの授業を展開する学習塾が注目を集めている。ここでは従来の“知識つめこみ型”ではなく、子どもたち個々人の才能と創造力を引き出すことを目的にしているという。どんな授業が行われているのだろうか。
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木漏れ日がキラキラと差し込む、夏真っ盛りの山の中。辺りを駆け回るのは、花の色を比べたり、植物や木の根っこを採集する子どもたち。スコップを片手にひたすら穴を掘り続ける子もいる──。これは、学習塾『a.school』が主催した軽井沢での4日間の夏合宿「自由研究×自然体験 自然探究キャンプ」の様子だ。小・中学生がそれぞれに、花の色の種類、根っこの形の違い、雨はどれくらい土に染み込むのかなど、自ら設定したテーマに向き合っていた。じゃれあいながらも真剣に意見を主張し合うさまは、さながらいっぱしの研究者のよう。そこには「自由研究、何をやったらいいだろう……」と思い悩む姿はない。
「普段、学校の授業では算数の公式や歴史の年号といった“知識”を学んでいるのに、いきなり“自由に研究してきて”と言われても、とっかかりがないし難しいですよね」とa.school代表の岩田さん。
では、どのようにして子どもたちが自ら動きだす“とっかかり”をつくるのか。
「なにより大切にしているのは、子どもたちの好奇心を育てること。好きだからこそ学ぶという感覚と、物事を自分で深掘りして考えられる力がつけば、大人になって社会に出ても必ず通用するはずですから」(岩田さん)
塾を飛び出してまちを探求!
「自然探究キャンプ」は夏休みだけの限定コースだが、そのもとになっているのが年間通じて行われている「探究ラボ」というクラス。探究ラボでは「考える、つくる、発表する」を1セットとして、設定したテーマに約3か月かけてじっくり取り組んでいく。塾でありながら、テストの点数を上げるためといった直接的な学力の向上を目的としていないのが特徴。だからだろうか、子どもたちの表情は明るく、発言も活発。いわゆる学ばされている雰囲気は一切ない。
あるときには“まち”をテーマに、生徒と一緒に商店街に繰り出し、商店主たちにインタビューをして回った。インタビューするのも、質問を考えるのも、もちろん子ども自身だ。
和菓子屋、魚屋、医療器具店に理髪店……。何人もの話を聞くうち、ある生徒は「職人はなぜ仕事愛のある人が多いんだろう?」といった探究の種を自然と見つけていた。そして、こうした問いをさらに深めるために自ら大人にアンケートを取ったり専門家を訪ねたりして調査を進めていくのだ。
最後は、探求によって知ったまちの魅力をオリジナルのカードゲームで表現。ゲーム会社の力も借りて商品化までこぎつけた。
スタッフや保護者の助けもあったとはいえ、完成した作品はルールやイラスト、デザインまで、すべて子どもの手によるものだというから驚かされる。
「ぼくらは、生徒が“ノル”状況を整えることに注力して、細かいことにはあまり手を入れません。助走さえつけてあげればあとはうまく進むので」
子どもに達成感と自信をつけさせるには、周りの大人が手や口を出しすぎるのではなく、主導権をしっかりと子どもに預けることが大切。そのうえで、適切な問いかけによって発想を引き出したり、違う視点を与えたりするという。
「老人あつめ様」というカードゲームをつくった、当時小学5年生の阿部兼宗くんは、「ルールづくりは難しかったし完成まで5か月くらいかかったけど、自分の考えたものが本格的なカードゲームになったのがすごくうれしかった」と、手応えを語る。
「老人あつめ様」は、探究ラボでのまち歩きの際に、ひとり暮らしの高齢者と若者との共生を目指すNPOの取り組みに兼宗くんが興味を抱き、探究してゲーム化したもの。完成した作品がNPOの代表に喜んでもらえたこと、さらには塾生たちでゲームショーに出展して来場者の大人相手に販売まで行った経験も財産だ。