長塚がヒントの北斎像、“天才”宮崎の演技
「出演依頼でお会いしたとき、長塚さんが“北斎は娘(お栄)に嫉妬していたのかもしれないね”と、おっしゃったんです。なるほどな、と思い、劇中に取り入れました。気づくかどうかは、ご覧になる方次第なので、お見逃しなく」
物語が進むにつれ、北斎が描いている絵もだんだん仕上がりに近づいてくる。そのため、描きかけの絵を何十枚も用意、シーンが変わるごとに差し替え、時間のかかる撮影となった。
「俳優さんを待たせてしまうんですが、長塚さんは、“あおいちゃんとの芝居だから全然疲れないよ”と。
宮崎さんは、正面からお栄という役をつかまえていて、まったくブレません。撮影を見ていて、“そうだよね、人ってこういうとき、あんな顔するよな”と、感動することが多々あり、演技の微妙なさじ加減が素晴らしいです。北斎も天才だったけど、宮崎さんも天才といわざるをえない。
(撮影の空き時間は)ぼうっとしているか、一心不乱に刺しゅうをしているんですけどね(笑)」
お栄、北斎、善次郎の個性は、衣装でも表現されていて、見どころのひとつ。
「お栄は、女性の画家がまだ少ない時代に誕生した。堅苦しい江戸時代の風習や、しきたりを気にもせず、自分の生き方をすがすがしく貫いていった女性の魅力を感じてください。そして、本作を見ると、北斎関連の知識が増えるので、北斎専門家になれるかもしれませんよ(笑)」
裏方が支えた200枚以上の名画
北斎が絵を描く部屋は、描きかけの絵だけでなく、描き損じも大量にあって散らかり放題!
「描きかけの絵だけでなく、描き損じも、すべて、東京芸術大学の助手、院生の方に描いていただきました。描き損じだからと、和紙にカラーコピーですませると、(4Kカメラで撮影すると)インクだとわかって、墨のニュアンスがなくなってしまう。映像美にこだわった作品なので、ひとつも手を抜きませんでした。裏方のお力添えがなかったら、今作は成立しなかったと思います」(佐野P)
お栄、北斎の分も含めて200枚以上は描いてもらったという絵は、描き損じも含めて、見逃せない。