昨今、不妊というと、その原因は女性側、特に「卵子の質の低下(俗にいう、卵子の老化)」だと一方的に言われ、女性のみが心理的プレッシャーを感じるのが常だった。
しかし、最近の研究では男性側の「精子の質の低下」も注目されるようになった。わかりやすく言えば、精子の機能異常率についても、生殖補助医療において重要であり、精子検査の必須項目として考えなくてはいけないことがわかってきた。
そのため、夫は妻を安心させるためにも、卵子の質だけでなく、精子側の質も一緒に診断してもらうという必要があるのではないだろうか。
「その具体的な方策として、精子側技術(高品質な精子を選別する技術と、高品質精子であることを評価する技術)の高度化、ならびに授精技術の高度化により、できるかぎり顕微授精を回避し、一方、顕微授精をせざるをえない症例では、精子品質管理を徹底して、安全性の向上を図ることを提唱しています。
医療行為には必ずリスクが伴うのですから、限りなく自然妊娠に近づけるように技術を開発して、人為的な医療技術の介入(医療行為)を極力減らす技術に徹するべきなのです」(黒田医師)
前回記事でも少し取り上げたが、顕微授精実施には前提とすべきことがある。1つは、精子数や運動率よりも、得られた精子の質が良好であること、つまり精子の機能が正常であって、穿刺注入できるレベルの高品質な精子であることを確認できているということだ。
もう1つは、生殖補助医療は、人工的な技術を加えるほど異常が起きやすく、なるべく自然に近い方法をとったほうが安全だということだ。
一般的な不妊クリニックでは「問題があるわけではないから、顕微授精を実施しても構わない」という考えであるのに対し、最近では「生まれてくる子どもの安全が最優先。安全性が確認できたわけではないから、なるべく顕微授精を回避しよう」という新たな潮流も出てきている。
「『精子の質の選別と評価』の技術開発に関しては、少し難しい表現になりますが、『性交で自然に膣内に射精された精液中の精子が、卵管内の卵子まで到達するまでの間に、精子の質の選別が自然に行われていることを再現すること』が重要です。
そこでは精子の優劣を人為的につけているわけではありません。言い換えれば医療行為には必ずリスクが伴うため、限りなく自然妊娠に近づけるように技術開発し、人為的な医療行為を極力減らす技術に徹することによって、生殖補助医療、特に男性不妊治療の安全性の向上に貢献することを目指すことが大事なのです」(黒田医師)