コーポラティブハウス自体にアラート
一生に一度の買い物といってもいい「家」を共同体で、というところにまず不安しかない。シェアハウスのように出入りが容易な賃貸ならば、まだいいけれど、ローン組んで買うんでしょ? しかも打ち合わせの段階でどう見ても気が合わなさそうな人々。
よく決めたな、と思う。そもそも、コーポラティブハウスなんて、土地が高い都心限定、そして収入が高い世帯限定。都内で言えば、世田谷区、目黒区、杉並区あたりのおしゃれタウン限定だよね。なんかいけすかない。
ドラマに登場する家族の世帯所得を妄想するに、1000万円以上ないと厳しそうな気もする。金持ち喧嘩せず、というけれど、実際にはそんなことない。どんなコミュニティでもささいな違いが疲弊を生み、大きな障害となっていく。
総世帯数が300超えの巨大マンションに住んでいれば、そんなに隣人を気にしないですむと思いがちだが、実際は違う。「7階の奥さんが話が長くて、会うと15分はつかまる。しかも自慢話しかしない」とか、「犬猫の鳴き声が異様にうるさい」とか「しつけがなってないガキが走り回って迷惑」とか、「ゴミの出し方が汚い」とか、「理事会の催しに一切参加しない非協力的な家」とか。
コミュニティが大きくても必ず不満は噴出。小規模共同住宅ならなおのこと、危険性は推して知るべし、である。
このドラマはコーポラティブハウスのデメリットを強調する効果がかなり高い。いくら金利が安くても、共同運営で安心といえども、家選びは慎重に、というメッセージなのだと受け止めている。そして、今回のアラートは、これから家を買おうと考えている人に向けての「その家、その土地、その隣人、ホントに大丈夫?!」という提言でもある。
誰にいちばん共感する?
専業主婦・真飛の素敵な奥さんアピールもめんどくさいが気の毒だし、深キョンの子どもができない焦燥感もわかるし、メアリージュンの子ども不要論も痛く共感できる。ついでに言えば、眞島の平穏な暮らしを望みながらも若い男子に振り回される刺激へのひそかな欲望、というのもうっすらわかる。
自分の立ち位置に近い人に共感するのが普通だが、このドラマの場合、ちょっと心配なところがある。コーポラティブハウスを通して、多様性と協調性を重んじるあまり、全員善人化しそうな気配があるのだ。
すべてが丸く収まるほんわかホームコメディの陰では、必ず誰かが変化を余儀なくされたり、我慢を強いられていることを忘れてはいけない。できれば、この息苦しい共同体から脱落する人も描いてほしいな。そこにリアリティが出るんじゃないかと思う。
吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/