洋子は、当初の目的の婚活そっちのけで、ズルズルと陽介にのめり込んでいく。
「2回目に飲みに誘われて行って。その帰りに、“駅の構内でチューする?”って言ってきて、キスをして、手を繋いでいたんです。そして、ディープキスまでしちゃって別れた。これは次もあるなって思った。それでも身体の関係までいくのに、1年くらいかかりました」
陽介は深夜勤務も多く、妻には急な宿泊も不審に思われることはない。二人で飲みに行くこともあったが、月に一度は、洋子の家で一晩を過ごすようになった。
陽介は肉欲に任せてガツガツとするタイプではない。性欲自体も薄いのかもしれないと、洋子は感じた。そんなところも洋子は好きだった。「とにかく一緒にいて、ラクで、楽しい」それは陽介も同じようだった。
洋子は、陽介を積極的に自宅に招くようになった。大好きなアニメや映画を見て、ソファーでまったりして、イチャイチャと戯れる。
性急なセックスになだれ込むよりも、スローな前戯のようなイチャイチャ――。それでお互い満足だった。
そして1年後、ようやく二人は結ばれた。
「初めてのセックスは、ちょっとぎこちない感じだったけど、それが逆にうれしかったですね。セックス自体は普通で、特にうまいという感じでもなかった。でも、セックスよりも二人でイチャイチャするのが好きという感覚は、一致してましたね」
逢瀬を重ねるうちに陽介は、「本当に、結婚して良かったのかなと疑問に思うんだよね……」と、そんな言葉を洋子に漏らすようになった。そして彼は、娘が生まれて以来、5年間、妻とはセックスレスであることを打ち明けた。
妻と子供のいない不倫相手の家へ
ある日、飲みに行った帰りに、陽介は洋子を自宅に誘った。
「今日は、嫁も子供も実家に帰ってるから」
陽介一家は、神奈川県の郊外にある一戸建てに住んでいる。駅から離れているため、陽介は自転車で通勤しているのだという。深夜、自転車に二人乗りして、陽介の自宅に向かった。
「私も、ちょっとおかしくなっていて、なぜだか彼の家族の生活っぷりが見てみたいと思っちゃったんです。だから、いいよって言いました。家に着いたら、“あぁ、ついに来ちゃった”って思いました」
玄関を開けると、正面の壁に掛けられた無邪気にほほ笑む女の子の写真に、洋子は思わずギョッとのけ反った。どうやら、七五三の写真らしい。
「スタジオアリスで撮った娘のディズニーのプリンセスの写真がドーンと飾ってあった。おぉ、娘だって驚いたんです。娘がいたのは前から知ってたけど、なんか、“私、なんでこんなとこいるんだろう”って、すごく変な気持ちでした。もし私が奥さんで、この状況を知ったら、“死んだほうがましだわ”って冷静に思う自分がいました」