臨月の妻に発達障害の可能性を伝えるか悩んだ
仕事の量だけが増えていき、毎日残業の日々。「自分は要領が悪いからだ」と思いながら頑張っていたが、精神的にも肉体的にも限界を感じ始めていた。仕事ができないことに悩んだ末、ふと以前ネットで見かけた発達障害の記事を思い出した。そのときは「自分も当てはまる点があるなぁ」と思ったものの、たいして気にしてはいなかった。
ここまで悩んでいて、もし自分が発達障害であり仕事ができない原因がわかるのなら、少しは楽になるのではないかと病院への受診を検討するようになった。ただ、受診をためらう理由の1つに妻の存在があった。
「妻とは2011年に結婚しました。精神科を受診しようか悩んでいた昨年11月は2歳半の息子がいて、その月に第2子の出産を控えていました。出産間近のナイーブな時期に、『発達障害の可能性があるので病院を受診したい』と伝えることに抵抗がありました。妻を心配させたくなかったし、もともと人に相談せず溜め込むタイプなんです。そこで、里帰り中だった妻のもとへ出向き、タイミングが合えば話そうと決めました」(西岡さん)
里帰り中の妻の実家に行った際、事態は思わぬ方向へ動く。残業が多くなって気分の落ち込みのある西岡さんに、妻のほうから「元気がないけど何かあったの?」と聞いてきたのだ。そして、発達障害の可能性があること、病院を受診したいことを告白した。
精神科に通うとなると世間からは偏見もあるため、不安もあった。妻は発達障害についてよく知らなかったので、症状の説明をした。すると「実際に当てはまることはあるかもしれないけど、一緒に生活していて不便とかおかしいと思ったことはないし、気にすることはないんじゃない?」と言われた。
しかし、西岡さんが困っているのは家庭での自分ではなく職場での自分だ。自分の仕事のできなさを話すと、「それだったら受診してみたら?」と、妻に言われて受診を決意した。
「最初に受診した病院の医師は発達障害にあまり詳しくないようで、『性格なのではないか』『仕事が忙しいだけなのではないか』と言われてしまいました。でも、発達障害に詳しい精神科を受診したら、ADHDとその二次障害のうつだと診断されました。まずはうつの治療をして、それからADHDの薬を処方してもらうことにしました」(西岡さん)
うつがある程度良くなってからはADHDの薬であるストラテラを処方された。最初は食欲不振や眠気などの副作用に悩まされたが、2~3週間飲み続けたところ、今まではできなかった書類仕事が、うそのようにこなせるようになった。
つねに頭の中にあった雑音や考え事がなくなり、「無」が増えてクリアになった。今まで悩んでいたのは発達障害が原因だったことがわかり、割り切れるようになったため生きづらさも軽減した。ところが、職場では発達障害が完全に理解を得ているとは言えない。
「以前、上司に『発達障害かもしれない』と相談したときは『ほかにも仕事ができない人はいるし、障害のせいにするのもなぁ……』と言われました。職場に産業医のカウンセラーの方も来ているのですが、ある日偶然上司とカウンセラーが発達障害の話をしていて、そのときも『仕事ができないのを発達障害のせいにする人も多い』と言っていました。ただ、きちんと診断が下りてからは仕事の量や負担は軽くしてくれました」(西岡さん)