自分の殻を破るともっとらくになれる
若竹さん自身、自分の殻を破ることでらくになったという。
「“こういう自分でありたい”という思考から解放されると、気負いがなくなるんです。特に女性は、男の子よりもきちんとしていないとダメだとか、娘時代から縛りがきついですよね。でも、年齢を重ねるうちに、“このままでいいじゃん”って、自分のありのままを認められるようになれたような気がします。年をとるのって、思っている以上にらくですよ(笑)」
いま日本は超高齢社会の到来や年金問題といった現実に直面しているものの、本書からは未来への希望が感じられる。
「年をとるとあまりいいことがないと考えるような風潮がありますが、でも、自分の未来を悲観しなくてもいいような気がするんです。自分を制限することなく、もっと自由に思いどおりに生きていけばいい。この小説ではそのことをいちばん、伝えたかったのかもしれないですね」
ライターは見た! 著者の素顔
自身のことを「のんびりした楽天家で、桃子さんよりはお友達がいっぱいいます(笑)」と自己分析する若竹さん。自宅から車で10分ほどのところにある山に登ることが日ごろの楽しみのひとつなのだそう。「その山を一周すると、ふもとの案内所でスタンプを1個、押してもらえるんです。毎年、100個以上、スタンプをもらっていたのですが、今年はまだ3回しか登ってなくて……。生活が落ち着いたら、またコツコツと登ってスタンプを集めたいです」
<プロフィール>
わかたけ・ちさこ◎1954年、岩手県遠野市生まれ。岩手大学教育学部卒業後、臨時採用教員を経て結婚、上京。55歳から小説講座に通いはじめ、8年の時を経て本作を執筆。2017年、第54回文藝賞を史上最年長となる63歳で受賞。2018年、第158回芥川賞受賞。
(取材・文/熊谷あづさ)