権威が搾取する女のプライバシー
2001年から2016年までの15年間、アラーキーの数多くの作品でモデルをつとめたKaoRiさん。当時を振り返り、勇気をふりしぼって、アラーキーの所業を発表したのだ。
その内容は、権威によって主語とプライドとプライバシーを奪われたひとりの女性の切実な訴えだった。撮影や出版に関する同意書や契約書もなく、時間的な拘束は増えていき、無報酬の撮影もあったという。撮影時にわざと過激なポーズを取らされるのはもちろん、NHKの番組では胸を露出させられたことも。
彼女は「有名芸術家ならなにをしても武勇伝になって正当化されるというメディアの判断にも不信感を募らせた」という。「芸術という仮面をつけて、影でこんな思いをするモデルがこれ以上、出て欲しくありません」というのが本懐だ。
私の手元にある写真集にも、KaoRiさんの写真は数枚掲載されていた。告発手記を読んだ後では、なんだか彼女が泣いているようにも見えてしまう。
そう、ここでオンナアラート発令なのだ。権威や芸術という、ある種の「数の暴力」に、言葉も主語もプライバシーも奪われてしまった女性がいる。犠牲者がいる。その事実を知ってしまった以上、天才アラーキーを崇めることはもうできない。KaoRiさんの告白はおそらく氷山の一角だ。
彼女の手記が素晴らしいのは、モデルになりたいと思っている女性たちに警鐘を鳴らしているところだ。モデルとして16年やっても何も残らなかった、一度撮られたら死んでも消してもらえない写真芸術という行為の恐ろしさを、今になって一層強く感じているという。アイドルやモデル、女優を目指す女の子、そういう娘をもつ親には、ぜひ読んでほしい。
また、権威や権力を持つ側にも苦言を呈している。ただ単にアラーキーへの恨み節だけではない。警鐘を鳴らしつつ、前向きに建設的な意見をしっかり書ききっているのだ。
もちろん、かなりの嫌味を織り込んだ文章もあった。でもウィットに富んでいて、私は彼女のユーモアセンスに感心したよ! アラーキーと対話をしてわかり合いたかったが、わかり合えない人だと気づいて終わったというKaoRiさん。気持ちの整理はついたそう。