漁業補償金をめぐる集会へ向かう祝島の“おばちゃんたち” 撮影/山秋 真
漁業補償金をめぐる集会へ向かう祝島の“おばちゃんたち” 撮影/山秋 真
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 祝島の人々は発奮した。自主勉強会をやった人も、漁業補償に関する祝島支店や、本店の会議議事録を請求した組合員もいる。

「知れば知るほど嘘でやられてきたんだ。バカにしとる」

 本店はその後、補償金の配分案を一方的に作成。'13年6月から'14年3月に4回、採決集会を招集したが延期を繰り返した。祝島の人々が反発したのだ。島だけの問題ではないと全国へ連帯を呼びかけた。

 次に本店が採決集会を招集したのは'15年4月。初の島外開催に、組合員の多くは書面議決で配分案を否決した。

 そのころ、中電社員が3人、4年前から社名を隠して毎月のように来ていたと発覚。だまされていた宿の関係者はこう悔しがる。

「NTTの人だと思っていたら、あれは中電の人だという人がいて。それで名刺を見せてと言うと、出さん。会社の電話番号を聞くと、やっと言ったのは下関の番号。実際は上関の事務所から来ていた。

 漁協の集会のたびに補償金受け取り賛成が増えて、オカシイと思っとった。金で切り崩したんでしょう、3人は夕方になると弁当持って仕事に出かけとったから

 '17年5月には、祝島支店の集会で、補償金受け取りの是非を事実上問う採決が抜き打ち的に図られた。騒然となり採決しないで終了したが、翌6月にも採決が強行され、ついに司法へ持ち込まれた。

 山口地裁岩国支部は12月、この書面による採決は「違法で無効」と開票を禁じる決定をした。受け取りを拒む組合員の主張は認められたのだ。

 前運営委員長の恵比須利宏さんは、こう話す。

「補償金は、もらわないのがいちばんいい。この問題は第2次安倍政権から。現首相を辞めたら、なくなるだろう」


〈取材・文/山秋 真〉
ノンフィクションライター。神奈川県出身。石川県珠洲市、山口県上関町と原発立地問題に揺れる町と人々の姿を取材。近著に『原発をつくらせない人びと――祝島から未来へ』(岩波新書)がある ※岡本さんの意見陳述書はこちらに全文掲載https://wan.or.jp/article/show/7763