一茂は常に勝手に期待され、比べられて生きてきた。何をしてもマスコミは、一茂にピントを合わせてきた。
少年野球を始めた、立教野球部に入った、プロ野球に入った〜その都度、期待され、比べられ、がっかりされてきた。
国民的スターの息子という十字架と物差しを背負って生きてきたのだ。
そりゃ、カメラを向けられると習性としてボケたくもなる。防衛策としてボケる術を身につけたのだ。
禍福は糾(あざな)える縄の如しというが、一茂は究極のメリットとデメリットという縄をより合わせ生きてきた。その中で培った哲学が「人生を楽しもう」なのだ。
かつて長嶋茂雄が引退の時、自分の人生をミスターに重ね合わせ泣いたおじさんたちがいた。今その二世たちはおじさんになり、ヒステリーな時代を生きている。
ミスタージャイアンツの華麗なプレーと、一茂の自由な発言。
全く逆なように思えるが、どちらもワクワクするのだ。テレビはこのワクワクする空気が大事だ。
一茂の半笑いは、何を意味しているのか?
ボケたくて仕方がない顔なのか。
「自分が消耗されてるってことに気づいているよ!」という顔なのか、それとも私たちに、「楽しいことしないと人生終わっちゃうよ!」と言っている顔なのか。
<プロフィール>
樋口卓治(ひぐち・たくじ)
古舘プロジェクト所属。『中居正広の金曜のスマイルたちへ』『ぴったんこカン・カン』『Qさま!!』『池上彰のニュースそうだったのか!!』『日本人のおなまえっ!』などのバラエティー番組を手がける。また小説『ボクの妻と結婚してください。』を上梓し、2016年に織田裕二主演で映画化された。著書に『もう一度、お父さんと呼んでくれ。』『続・ボクの妻と結婚してください。』。最新刊は『ファミリーラブストーリー』(講談社文庫)。