「ここがヘンだよ外国人」
現在、142か国5200人の外国人タレントとのコネクションを持つ稲川素子事務所。外国人を扱うならではの、大変さもあるのでは?
ーー海外は文化も違います。日本で外国人をビジネスとして扱うのは相当大変だと思うのですが。
「当然、日本人のようにはいきませんね。経験上、まず外国人タレントさんは自己主張が強い。自分が一番だという考えの人も多い。だからたとえば、遅刻しても罪悪感がないから、こちらは困るんですよ(笑)。
それに、台本が変わると『聞いてないよ』と言って怒り出すわ、しまいには帰ってしまうこともあるくらいです。だから、『台本が変わることもあるので、肝に銘じておいて』と事前に話し合っておくんです。日本人とはまったく感覚が違いますよ」
――日本人の感覚では考えられないですね。
「それにすごい現実的。外国人は共演者が高倉健さんであろうが吉永小百合さんであろうが、そんなことよりギャラが高い方を選ぶんです。すごい合理的。日本人なら大物俳優と共演できることのほうが勝るじゃないですか」
――役者さんは作品や監督で選ぶみたいなところがありますよね。
「だから、仕事で彼らのことを一か月間ほど拘束するとなると、その分、お金の保証が必要になるんです。そういう意味では、管理が大変です。
それに外国人タレントは、待つことに慣れていない。エキストラの仕事のときは、待つのも仕事なんですが、何時間も待たされると、どこかに行ってしまったり……」
――過去に数えきれない困難を乗り越えてきているんですね。
「現場に迷惑かけてしまったことも沢山ありましたが、その分、必ず結果を出す。だから、とにかく毎日を必死で生きてきました。『精一杯は万策に勝る』。これが、私の座右の銘です」
専業主婦から50歳で芸能事務所を立ち上げ、65歳で一度中退した慶應義塾大学に再入学。そして74歳でナント東京大学大学院に入学。高齢でありながらも、社長業と学業を両立させている。
多忙でも、出演を控えたタレントのために5日間つきっきりで日本語を指導したこともあった。すべては責任感。この言葉が彼女を支えている。