ひとり暮らしの部屋のベッドに寝ていたのは
ひとり暮らしのお部屋と言えば、その人らしいインテリアで、コーヒーの香りが漂っていたりするものだが、わたしが目にしたものは、リビングルームの左端に置かれたテーブルセットと、右側の壁にあった病院でよく見るベッドだった。わたしは、見慣れない光景に一瞬ひるんだ。
ベッドには明らかに死が近づいている正子さんの母親が寝ていた。正子さんにはお兄さんがいるが、弱くなった母親を引き取ることに嫁が反対したそうだ。家庭をもつと息子は嫁のものになりがちだ。正子さんのお兄さんも同じだった。子供がいる。時間がない。お金がない。部屋がない。の「ないないづくし」で同居を断ってきたのだ。
そこで、白羽の矢(?)がたったのが、独身で当時70代の妹だった。これはよくあるケースだ。
独身女性の場合は、長い間、家族を持たずに暮らしてきたことから、最後は母親と一緒もいいかなと、たいていは引き受けることになる。情けない話だが、きょうだいはお金の援助も手も貸さないのが普通だ。母親の本心は、娘より息子に看取られたいのだが……。
こんな言い方をしたら気分を悪くするかもしれないが、「独身女性は母親の介護要員」と思うことがある。独身女性が大半を占める団体を20年やってきて、いかに多いか知っているからだ。
経済的に豊かな家族は、母親を施設に入れて万々歳だが、ほとんどの家族は在宅で世話をすることになる。少子高齢化社会にあり、これは大問題だ。
人生80年時代なら、介護する年数も少ないが、人生100年時代となると、想像しただけで頭がくらくらしてくる。
正子さんが母親と同居した時は、母親も寝たきりというわけではなかったらしいが、年々弱くなり、ここ数年はベッドで寝たきり状態だということだった。
「数時間なら外出できるけど、それ以上は怖くてひとりで置いておけない。その間に急変ということもあるでしょ」と彼女は目尻にしわを寄せた。
介護保険をうまく使っているので昼はいいのだが、夜が大変だと嘆く。