東出 昨年春に台本が届いたときは、すごくうれしかった。ヒリヒリする感覚みたいなのがすごくリアルだし。印象的なセリフはいっぱいあるんですけど。震災にあったふたりが、ボランティアについて話をしてるときに「間違いのないことをしたかった」というセリフとかね。宝箱みたいにいい言葉がいっぱいつまっていて、このセリフを、濱口監督の世界で言えるのは、楽しみでしかたなかったです。
濱口 撮影に入る前に、計1週間ほどワークショップをしていただきました。基本的には本読みなんですけど、棒読みというか、ニュアンスや感情を抜いて読んでください、というようなお願いをしたんですよね。
東出 二役をどう演じようかあれこれ考えていたんですが、監督から「作為的な演じ分けは、考えないでください。東出さんという楽器から、それぞれのセリフの音が素直に出れば、見ている人は別人とわかるから」と言われました。自分にとって本当に新しい挑戦でした。撮影が終わった後、一人二役を演じたんじゃなくて、同時期に2本の作品に出ていたという不思議な感覚がありましたね。
「恋愛、大好きですね」
東出が演じたのはタイプの違う男性ふたり。ひとりは、最初にヒロイン朝子と劇的に恋に落ち、恋愛の渦中でふらりと行方をくらませてしまう麦。もうひとりは、傷ついたまま2年を過ごした朝子と出会い、武骨なアプローチを続ける亮平。
濱口 麦と亮平、違う役をやっているときに、相手役と演じていて、気持ちは違うものでしたか?
東出 亮平のときは、ずっと朝子に対しての焦燥感は感じていました。麦は、朝子のことが好きなんですけど、そこで完結してるから。相手のレスポンスに興味はないというか。愛されて当然と思ってるところもあるし。気持ちの違いは、なかなか難しかったですね。
濱口 原作はけっこう女心的だと思うんですけど、わかる気がしたんですよね。それは女心がわかるってことじゃなくて、この女性がこういう選択をするのはリアルだなという感じがしました。恋愛って誰でもするでしょう? かつ、すごいわっと感情が到達する可能性がある。だから、僕は恋愛ものを撮るのが好きなんです。僕自身が恋愛好きかどうかは……うーん、やっぱり好きだと思います。恋愛はみんな好きでしょ?
東出 そうですね。恋愛してきた数は多いですか?
濱口 いや、数は決して多くないと思いますけど。東出さんは恋愛好きですか?
東出 恋愛、大好きですね。恋愛の妄想ばっかりしています。デートするなら、どんなデートにしようとか(笑)。結婚してから、人の恋愛話が好きになったんですよ。自分が恋愛の渦中にいるときは、見ようと思わなかったラブストーリーが、今はすごく面白いなぁと思います。
濱口 麦と亮平、自分がどちらに近いか考えましたか?