'13年3月3日、北海道札幌市内の市営地下鉄に町田大輝くん(当時16=仮名)は飛び込み、自殺した。母親は、所属していた吹奏楽部の顧問による不適切な指導が原因として、'16年3月、北海道を相手に提訴した。
札幌地裁(高木勝己裁判長)で今年7月、顧問や教頭、生徒指導部長(いずれも当時)と母親の美和さん(仮名)が、8月には同級生の元部員・Aくんが証言した。このような裁判で、元同級生が証言をするのは珍しいといわれている。
孤立させて追い込んだ部活指導
教員の指導に起因する児童・生徒の自殺は「指導死」と呼ばれる。大阪市の桜宮高校で、バスケットボール部のキャプテンが自殺した事件はよく知られているが、その背景には顧問による体罰があった。しかし、暴力がないものの、心理的な圧迫感を与えた結果、自殺に至ることもある。
訴状などによると、'13年2月に吹奏楽部内でメールをめぐってトラブルが起きた。顧問は「売り言葉に買い言葉」としながらも、大輝くんだけに指導を行い、メールの相手である部員は“おとがめなし”だった。
3月にも部活内で別の問題が起きたが、このときも大輝くんだけが指導された。翌日、大輝くんは自殺した。
2月の指導では、メールを何度も送信し合うやりとりの中で、大輝くんが「殺す」という表現を書いていたため問題とされた。メールでのコミュニケーションは、背景となる人間関係や、やりとりの流れを把握しなければ、なぜ「殺す」という言葉を使ったのかがわからない。そのため表面的な指導に終始する。
ところが、生徒指導部では、トラブルのきっかけとなったメールでさえ、十分に把握していないことが証人尋問で明らかになっている。にもかかわらず、大輝くんだけが、ほかの部員との間でメールを一切禁止するという処分を受けた。
Aくんは証言する。
「今後、メールは最低限の連絡のみ。大輝くんにはメールを含めていっさい連絡をするな、と顧問が言ったのを覚えています」
このとき、大輝くんは反省文を15枚も書いている。この「指導」は学校も把握して行われたが、メール禁止の処分は、顧問単独での判断だ。大輝くんは部内で孤立していく。