夫のがん再発で苦渋の決断
夫・玉置哲さんと子連れで再婚したのは、2003年、39歳のとき。
16歳年上で、家電やレストランのメニューなど『物』を専門に撮影するカメラマンの哲さんは、職人気質で、口数が少ない男性だった。
「話しかけても、“さてね”なんて、気のない返事をするし、いつも無愛想。でも、趣味で撮った草花の写真を見せてもらったとき、がらりと印象が変わりました。こんなに繊細な写真を撮る人は、きっとやさしい人なんだろうって」
プロポーズの言葉は、
「僕を看取ってください」
付き合う前に、夫は大腸がんを経験していた。
もっとも、経過は良好だったので、「看取り」にリアリティーなどなかった。
再婚の翌年には、次男が誕生。家族4人の、にぎやかな生活が始まった。
がんの転移が見つかったのは、最初の手術から5年後、夫が還暦を迎えたころだった。
「膵臓(すいぞう)の膵胆管という、厄介なところでした。手術はしたけれど、主治医は取り切れなかったがんを、抗がん剤でたたいたほうがいいと。でも、主人はきっぱり断ったんです。“もう、治療はしません。家に帰してください”って」
医療的に、まだやれることはある。抗がん剤が効けば、延命できるかもしれない。新薬が開発される可能性だって、捨てきれない。看護師としてわかるだけに、夫の決断を容易には受け入れられなかった。
幼い子どももいるのに、無責任だと、腹も立った。
何度も話し合いを重ね、ときに言い争いもした。
やがて、折れたのは妙憂さんだった。
「主人の意志が固かったこともあるけれど、思い出したんですよ。看護師になったころに感じた、あの違和感を。残された時間を、自宅で好きなことをして過ごしたい。主人が望むなら、かなえてあげようって」
そう言った後、言葉を足す。
「うーん、でもね、頭でわかっていても、やっぱりずっと葛藤があったなあ」