待ち望んだ感動の再オープン
クラウドファンディングと寄付では、県内外含め700人から2200万円が集まった。そして、小友は計画の見直しを図った。
耐震工事、電気設備や空調設備を全館行うとなると大変な工事となる。一方、1階と6階の営業だけなら半額以下の予算ですむ。
資金調達については市内の金融機関からの融資が決まり8月30日の記者発表で「営業再開は’17年2月20日を目指す」と宣言できたのだった。
小友は、営業再開前にいくつかのイベントを計画。最初に行われたのが、花巻出身のシンガー・ソングライター日食なつこのライブだった。
彼女には『あのデパート』という曲がある。これはマルカン百貨店閉店報道を聞いて作られた曲。こんな内容だ。
─自分が幼かったころには大きなデパートだと思っていたのに、大人になった自分が再びデパートを訪れると実は小さなデパートだったと気づく。かつて背伸びをしても見えなかった食品サンプルの一番上はビールとコーヒーという大人のメニューだった─。
ライブで彼女は、ピアノの弾き語りで『あのデパート』を歌った。歌詞の中の「次の夏になくなってしまう」という部分を「次の冬にまた幕を開ける」と変えて。
’17年2月20日─。
雪降る中、マルカンビルは復活を遂げた。この日、大食堂は1200人を超える来客となり、ソフトクリームは約350食が販売された。
高橋菜摘さんが言う。
「ものすごい人でした。鳥肌が立つくらい。どれだけの人たちが復活を待っていたのかと思うと泣けてきました」
いつも冷静な小友もこの日だけは違っていた。
「一気に走ってきたので、感情が昂(たかぶ)るなんてなかったけれど、あの日、1階の店内からシャッターが上がっていくのを見たときは、さすがにジーンときましたね」
そして、集まった大勢の客の前で小友は言った。
「僕らはきっかけを作っただけで、これはみなさんがやったことなんです。町づくりって本来そういうことだと思うんですよ」
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再オープンから1年以上がたった今でも大食堂には客足が絶えない。今年11月には食品売り場だった地下が新たにオープンすると小友が言う。
「スケートボードパークを作っています。東京オリンピックでは、公式競技ですから、ますます盛んになるでしょうね。あと2階には『おもちゃ美術館』を作ろうと思っています。うちは材木屋なんで木はいくらでも出せるし(笑)。それで商売もさせてもらおうと」
さらには、屋上に温泉を作るアイデアもあるらしい。
「花巻は温泉文化がありますからね。温泉郷から温泉水をタンク車で持ってきて、それを屋上までポンプアップして温泉を楽しめる施設にしようと。耐震工事が終わってからなんですが。いいでしょ? 温泉入ってから大食堂で大人はビール、子どもはマルカンソフト(笑)」
まるで夕食に何が食べたい、週末にどこに遊びに行きたいと話すような口ぶりだ。
小友は、この5月、同じスターティアグループで働く女性と結婚した。
「マストの条件は花巻に住めること(笑)。結局、僕たちは自分で住みたいエリアを作りたいだけなんです。こういうエリアがあったらいいなというのを一緒に作っていこうと。それを経済や経営の手法を使ってやっているんですね」
そして、子どもたちの故郷になっていく。住みたいエリアを作るカルチャーが次の世代につながってゆく。マルカンビル大食堂の奇跡は、そんな未来を予感させてくれる。
(取材・文/小泉カツミ 撮影/坂本利幸)
こいずみかつみ◎ノンフィクションライター。医療、芸能、心理学、林業、スマートコミュニティーなど幅広い分野を手がける。文化人、著名人のインタビューも多数。著書に『産めない母と産みの母~代理母出産という選択』など。近著に『崑ちゃん』(文藝春秋)がある。