ここには、わたしが普段から批判している茶系やくすんだ色の服を着た人はいないが、かといってカラフルな色の服を着ている人もいない。ほとんどの方が、生成りの白か、白っぽいグレーか、黒白だ。つまり無彩色だ。これが高級好みの方のシックなファッションなのだろうか。でも、あまり楽しそうに見えない。
しかも、もっと驚いたのは、ひとりの人はもちろんだが、夫婦の人までもが、中庭が見えるガラスに向かって座っていたことだ。皆さんが同じ方向に座って黙々とランチを食べている。夫婦も対面ではなく横並びだ。奥まった席から見ていると、まるで、シアターのように見えた。これには、正直、違和感を覚えた。これまでに、いろいろな施設を見てきたが、この光景は初めてだったからだ。
特に、ひとりで入居している男性は、身なりがいい分、寂しく感じられた。表情がとても悲しそう。誰ともあいさつもしなければ話していない。黙って食べ、黙って席を離れる。
館内を案内されているときは、はしゃいでいたわたしたちだったが、だんだん重い気持ちになり無口になった。お金で安心は買えても、幸せは買えないのだ。
高齢者の幸せって何なのだろうか。わたしの最終地点はどこなのだろうか。施設を見学するたびに考えさせられる。
<プロフィール>
松原惇子(まつばら・じゅんこ)
1947年、埼玉県生まれ。昭和女子大学卒業後、ニューヨーク市立クイーンズカレッジ大学院にてカウンセリングで修士課程修了。39歳のとき『女が家を買うとき』(文藝春秋)で作家デビュー。3作目の『クロワッサン症候群』はベストセラーとなり流行語に。一貫して「女性ひとりの生き方」をテーマに執筆、講演活動を行っている。NPO法人SSS(スリーエス)ネットワーク代表理事。著書に『「ひとりの老後」はこわくない』(PHP文庫)、『老後ひとりぼっち』(SB新書)など多数。